ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

140.陽明病 223・224条 猪苓湯

【二二三条】

若脉浮、發熱、渴欲飲水、小便不利者、猪苓湯主之。方十三。

若し脉浮、發熱、渴して飲水せんと欲し、小便不利する者は、猪苓湯(ちょれいとう)之を主る。方十三。

 この条文も221条の第一の誤治の後に続く条文だと考えています。

 誤治後の経過に、調胃承気湯、白虎加人参湯、そしてこの条文の猪苓湯のバリエーションがあるということですね。 

 猪苓湯の方意を吟味します。

  先ずは生薬の薬能を列記します。

猪苓 気味淡甘平

中薬学:利水滲湿
薬徴:渇して小便利せざるを主冶するなり。
新古方薬嚢:渇を止め小便を利するの効あり。大概内に熱あるものを治す。小便利せずして嘔吐するものにも宜し。

阿膠 気味 甘 平
中薬学: 補血 滋陰 止血 清肺潤燥 血肉友情の品
新古方薬嚢:肌肉の傷れを治し急を緩むることを主る。故に出血を止どめ煩を去る。

滑石 気味 甘 寒
中薬学:利水通淋・止瀉 清熱解暑 祛湿斂瘡
薬徴:小便の不利を主冶するなり。傍ら渇を治するなり。
新古方薬嚢:急を鎮め熱を去り塞がりを開く、故に滑を治し小便を利す。滑石は熱ありて小便の利せざる者を治す。故に滑石の治し得る小便の不利には必ずのどの渇きあるものとなす、之なき者は滑石の主冶する所にはあらざるべし。

 これらに「小便不利して冒眩するを主冶」する沢瀉、「悸及び肉瞤筋愓を主冶するなり。傍ら小便不利・頭眩・煩躁を治す」茯苓が加えられたものが猪苓湯です。

 ざっと見渡すと、口渇と小便不利があるにもかかわらず、水の停滞を解く方剤であることが分かります。

 主薬は、なんといっても方剤名になっている猪苓です。

 猪苓は、下焦でうっ滞して熱化した水を通利するイメージでしょうか。

 沢瀉は中焦の水を通利するような薬能がイメージできます。

 猪苓に似て、生薬の走る所が異なるというところです。

 そして水と気の結びを解く茯苓。

 滑石は文字通り、滑らかに通利させるイメージ。

 阿膠は、逆に水を冷やして粘らせるといったイメージです。

 五苓散と比べてみます。

 五苓散 沢瀉 猪苓 茯苓 白朮 桂皮 桂枝

  猪苓湯 沢瀉 猪苓 茯苓 滑石 阿膠

 共に、水を動かすことで清熱する方剤であることが分かります。

 61.太陽病(中)71~75条 五苓散

 五苓散と猪苓湯は、よく似た証候がありますが、先ずは病位が異なることが分かると思います。

 猪苓湯証は、下焦に水と熱が結んで生じたもので、脈浮と発熱は小便が止まり、下焦の邪熱が上行している姿ですね。

 小便も、恐らく出ていたとしても尿道が熱く感じ、色も濃くて出渋るだろうと推測できます。

 次に224条ですが、白虎湯類との鑑別を述べていると考えています。

【二二四条】

陽明病、汗出多而渴者、不可與猪苓湯。以汗多胃中燥、猪苓湯復利其小便故也。

陽明病、汗出ずること多くして渴する者は、猪苓湯を與(あた)うべからず。汗多く胃中燥(かわ)くに、猪苓湯にて復た其の小便を利するを以ての故なり。

 127.太陽病(下)170条 171条 白虎加人参湯ー無表證者

 133.太陽病(下)176∼177条 白虎湯 炙甘草湯

 鑑別点を復習して頂けたらと思います。

 

〔猪苓湯方〕

猪苓(去皮) 茯苓 澤瀉 阿膠 滑石(碎各一兩)

右五味、以水四升、先煮四味、取二升、去滓。内阿膠烊消。温服七合、日三服。

猪苓(ちょれい)(皮を去る) 茯苓 澤瀉(たくしゃ) 阿膠(あきょう) 滑石(かっせき)(碎(くだ)く、各一兩)

右五味、水四升を以て、先ず四味を煮て、二升を取り、滓を去る。阿膠を内(い)れて烊消(ようしょう)す。七合を温服し、日に三服す。

 

139.陽明病 221・222条 誤治と梔子豉湯

【二二一条】

陽明病、脉浮而緊、咽燥、口苦、腹滿而喘、發熱汗出、不惡寒反惡熱、身重。

若發汗則躁、心憒憒(公對切)反讝語。若加温鍼、必怵惕煩躁不得眠。

若下之、則胃中空虛、客氣動膈、心中懊憹。舌上胎者、梔子豉湯主之。方十一。

陽明病、脉浮にして緊、咽(のど)燥(かわ)き、口苦く、腹滿して喘し、發熱汗出で、惡寒せず反って惡熱し、身重し。

若し汗發すれば則ち躁(そう)し、心憒憒(しんかいかい)として(公對切)反って讝語す。若し温鍼を加うれば、必ず怵惕(じゅってき)として煩躁して眠を得ず。

若し之を下せば、則ち胃中空虛し、客氣膈を動じ、心中懊憹(おうのう)す。舌上胎ある者は、梔子豉湯(しししとう)之を主る。方十一。

 221条から224条までは、病態変化のバリエーションとして記述されているので、本条の内容をしっかりと覚えておく必要があります。

 最初に陽明病とありますが、脈浮緊です。

 いきなり矛盾した脉証です。

 これは太陽傷寒証の脉証ですが、「汗出」「不悪寒反悪熱」とありますので太陽表証からは離れてしまっています。

 もし万一、表証が残っていたとしても「汗出」ですので、脈浮緩となるはずなので、やはり矛盾します。

 ですから脈浮緊は、邪実が出るに出られず緊張している姿として捉えられます。

 その他、咽燥、口苦、腹満、喘、身重とありますので、142.219条 三陽の合病・白虎湯 の証候とよく似ています。

 ここまでの病態に、以下発汗法、温鍼、下法と誤治が続きます。

 

 第一の誤治 発汗法

 219条白虎湯証に似た病証に、太陽表証と誤認して発汗させてしまうと、躁と心神の乱れと讝語までもが現れてしまった。

 この状態で大便秘結がなければ、調胃承気湯かもしれません。(P51 29条・P114 207条参照)

 

 第二の誤治 温鍼

 もし温鍼して火に油を注ぐようになった場合、必ずちょっとしたことにでもビクッとして恐れおののき、煩躁して眠ることが出来なくなることが示されています。

 桂枝甘草竜骨牡蛎湯証などが考えられます。

 83.太陽病(中)118~122条 桂枝甘草龍骨牡蛎湯

 

 

 第三の誤治 

 もし下法を用いると、腹満は減じるかもしれませんが正気虚となり、居座ることになった邪気が膈を動じて心中懊憹するようになり、舌上に邪熱がうっ滞したために苔を生じた梔子豉湯証となるということです。

 62.太陽病(中)76条 心中懊憹(1)梔子豉湯

 

【二二二条】

若渴欲飲水、口乾舌燥者、白虎加人參湯主之。方十二。

若し渴して飲水せんと欲し、口乾き舌燥(かわ)く者は、白虎加人參湯之を主る。方十二。

 前条、第一の誤治後に現れる証と考えています。

  23.太陽病(上)26条 白虎加人参湯 煩渇

 これまでの復習をかねて、過去ブログをご覧くださいね。

 

 

 

138.220条 二陽の併病 宜大承気湯

【二二〇条】

二陽併病、太陽證罷、但發潮熱、手足漐漐汗出、大便難而讝語者、下之則愈、宜大承氣湯。十(用前第二方)。

二陽の併病、太陽の證罷(や)みて、但だ潮熱を發し、手足漐漐(ちゅうちゅう)として汗出で、大便難くして讝語する者は、之を下せば則ち愈ゆ、大承氣湯に宜し。十(前の第二方を用う)。

  二陽の併病ですから、太陽表証となり、それが解けないうちに陽明病証も現れてしまった場合です。

 その状態から太陽表証が解け、陽明病証単独となったのですね。

 そしてその陽明病証は、潮熱を発して全身から手足にまでじっとりと汗がして、大便が秘結して讝語する場合は、大承気湯を斟酌して下法を用いなさいという意味です。

 「大承気湯主之」ではなく「宜大承気湯」ですから状況に応じて小承気湯かもしれないし大承気湯かもしれない。そこは状況をよく見なさいということでしょう。

 二陽の併病に関しては、すでに過去ブログで公開しています。

 49.太陽病(中)48条 二陽併病 面色緣緣正赤者 

 48条は、太陽表証で発汗が足りないことによって陽明病位に転属してしまった場合について述べられていました。

 220条も、そのような経過をたどったのかもしれません。

 大承気湯証は、幻覚が現れる実熱による心神上擾がありましたし、循衣摸床などの重篤な症候もありました。

 こちらで復習して頂けたらと思います。

 139.陽明病 212条 大承気湯

 

137.219条 四逆湯証と白虎湯証の鑑別

 四逆湯と白虎湯に現れる口渇と腹満について、腹証奇覧翼の記載を手掛かりにして鑑別点を探ってみます。

 下図は陽明経証、白虎湯証の腹診図です。

 

 

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また下図は少陰病・四逆湯証の腹満です。

 

 

 

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 腹証奇覧では、四逆湯証の腹満は、しまりがなくて熟した瓜を按すようであり、拘急が見られる場合であっても腹皮に力は無く、腹底にすじばりががあって、脹滿していて無力であると述べています。

 それに比べて、白虎湯証の胸腹の肌膚は、熱灰を袋の外からなでるようだと言います。

 四逆湯証と白虎湯証は、手掌に伝わってくる熱感と腹部の有力・無力で噛み分けることを言っています。

 また他の所見での白虎湯と四逆湯の鑑別は、白虎湯は目に赤脉を生じ、舌苔はあるが歯茎まで乾燥して潤いが無く、すこぶる口渇があって病人に何となく勢い強く見えるとあります。

 さらに口渇の鑑別に関しては、基本的には冷飲・熱飲のどちらを好むかであると述べながら、これも一定しないと述べられています。

 白虎湯証の場合、水を飲ませるとすぐに額や目に潤いが現れるとありますので、本当にカラカラに燥いていることが分かります。

 四逆湯証に冷水を飲ませると、舌がヒリヒリとした感じがして寒を得たかのように手足に振るえを生じ、触れると医師の手にもたれるようで、無力であるとあります。

 ところが白虎湯証でも、飲水後に震えの生じる場合があり、この場合は拘急して自分の意思で手足が動かせなくなるとあります。

 陰陽が交わらず、反って熱結がひどくなるためでしょうか。

 なんか、かなり複雑です。

 このようなことがどのような病理で生じるのか、もう少し深読みしたいところですが、煩雑になるばかりなので今後の課題として記憶するにとどめたいと思います。

 四逆湯証も白虎湯証も、ともに非常に高い熱が現れる場合があるので、ここは注意して真仮を見極める必要がありますね。

 

〔白虎湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、一升温服、日三服。

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成りて、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

136.219条 三陽の合病・白虎湯

【二一九条】

三陽合病、腹滿、身重、難以轉側、口不仁、面垢(又作枯一云向經)、讝語、遺尿。發汗、則讝語、下之則額上生汗、手足逆冷。若自汗出者、白虎湯主之。方九。

三陽の合病、腹滿し、身重く、以って轉側し難く、口不仁し、面垢(あか)づき(又作枯一云向經)、讝語し、遺尿す。汗を發すれば、則ち讝語す、之を下せば則ち額上に汗を生じ、手足逆冷す。若し自汗出ずる者は、白虎湯之を主る。方九。

 この条文は、錯簡があると思われますので、意味が通じやすいように以下のように並べ変えてみます。

三陽の合病、腹滿し、身重く、以って轉側し難く、口不仁し、面垢づき、讝語し、遺尿す。若し自汗出ずる者は、白虎湯之を主る。

汗を發すれば、則ち讝語す、之を下せば則ち額上に汗を生じ、手足逆冷す。

 三陽の合病ですが、白虎湯証ですので便秘は無いはずですね。

 意訳してみます。

 三陽の合病で、腹が満で身体が重く、寝返りもできないほどである。

 食べ物の味も分からず、顔の気色が煤けたように垢が付いたようでうわごとを言い、小便を失禁している。

 これらは白虎湯証であるが、これらの症候には発汗がみられる場合もある。

 もし誤って発汗させると讝語し、下法を用いると額に汗が出て手足が冷えあがってくる。

 

 条文中の「面垢」に関しては、陽明胃経の病症に「顔黒」、少陽胆経の病症に「面微有塵」とありますので、なんとなく繋がりますね。

 恐らく、邪熱が燻蒸するためだと考えられます。

 また讝語するとありますので、小承気湯と鑑別する必要があります。

 白虎湯証は、陽明経証なので腑実が無いので、ここが鑑別点になります。

 他の鑑別点は、以下の白虎加人参湯を見てください。

 26.太陽病(上)26条 白虎加人参湯 煩渇

 

  さて、三陽の合病ですから、少陽から手をつけたいところです。

 おそらく少陽病の胸脇苦満も往来寒熱も口苦いなど、少陽病を思わせる症候もあるのでしょう。

 そうでなければ、太陽と陽明の合病のはずです。

 このあたりのことは、混沌とした感じです。

 三陽の合病・併病に関しては、過去ブログですでに触れているところがありますので、先ずはご覧ください。

 72.太陽病(中)99条 三陽の合病・併病 小柴胡湯

 99条の条文では、はっきりと表証が存在することが明記されています。

 それに比べて本条では、表証の存在が明確ではありません。

 このあたりのことを腹証奇覧翼で調べてみますと、転側し難いのは太陽、遺尿は陽明、口不仁は少陽に似ているが腹満がある。

 これらの事から、病位を弁別しがたいがために三陽の合病と言っているのだと述べられています。

 妥当な見解だと思います。

 腹証奇覧翼から、白虎湯証の図を見てみます。


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 上図から、口渇があるにもかかわらず、腹満があることが分かります。

 また白虎湯にも四逆湯のように四肢逆冷する場合があると述べられています。

 いわゆる熱厥です。

 さらには、四逆湯証にも口渇と腹満が現れる場合があるというのです。

 四逆湯証と白虎湯証。

 思わぬところで鑑別点を明確にする必要が出てきました。

 長くなりそうなので、今回はこれまで。

 次回は、白虎湯と四逆湯の鑑別について、もう少し書きます。

 

 

 

135.陽明病 214条 転気 小承気湯

【二一四条】

陽明病、讝語、發潮熱、脉滑而疾者、小承氣湯主之。

因與承氣湯一升、腹中轉氣者、更服一升。

若不轉氣者、勿更與之。明日又不大便、脉反微濇者、裏虛也、為難治、不可更與承氣湯也。六(用前第二方)。

陽明病、讝語し、潮熱を發し、脉滑にして疾(しつ)の者は、小承氣湯之を主る。

因(よ)りて承氣湯一升を與え、腹中轉氣(てんき)する者は、更に一升を服す。

若し轉氣せざる者は、更に之を與うることなかれ。

明日、又、大便せず、脉反って微濇(びしょく)の者は、裏虛するなり、治し難しと為す。更に承氣湯を與うべからざるなり。六(前の第二方を用う)。

  この条文では、小承気湯の脉証に触れられています。またこの条文では転気とされていますが、転失気でも良いと思います。

 ちなみに、転とは、腸がうごめく姿と捉えると良いと思います。ですから転失気は、お腹の胃腸が蠕動して放屁することだと理解されます。

 小承気湯は、太陰病との鑑別が必要でした。

 また、小承気湯と大承気湯の鑑別点のひとつに、大便鞕と燥屎の違いもありました。

 過去ブログで、述べていますのでご覧頂けたらと思います。

 138.陽明病 209~211条 轉失氣

 

 陽明病で讝語が現れているのですから、すでに大便鞕になっています。

 そして潮熱が現れ、脈は去来が円滑な滑脈で有力です。

 そして疾脈ですから実際に触れると、とんでもなく早く感じる一息7~8至位でしょうか。

 このような病態に、小承気湯を服用させると直ちに胃腸の蠕動が起こり、場合によっては放屁するようなら、さらに服用を進めて讝語が病むまで下利をさせなさいということですね。

 ちなみに、一息7~8至の疾脈が、遅脈に変じたら大承気湯ですね。

 その場合、濈然と汗が出ているはずです。

 そして小承気湯で治療を行い、日が改まって脈が微濇に変じていた場合は、裏虚となっているので、治しがたいと述べています。

 これは、正治によって邪毒が除かれると、自然と正気が回復するものであるはずです。

 これに反して回復しない場合は人力の及ばない、虚の状態であることを示していると考えられます。

 当然このような場合に、小承気湯を与えると命期を促すことになりますね。

 かといって、正気を回復させるのも難しいと述べているのだと思います。

 215条から218条までは、原文と読み下し文のみ掲載しています。

 次回は219条 三陽の合病・白虎湯証からです。

 

【二一五条】

陽明病、讝語、有潮熱、反不能食者、胃中必有燥屎五六枚也。若能食者、但鞕耳。宜大承氣湯下之。七(用前第二方)。

陽明病、讝語して、潮熱有り。反って食すること能わざる者は、胃中に必ず燥屎五、六枚有るなり。若し能く食する者は、但だ鞕きのみ。宜しく大承氣湯にて之を下すべし。七(前に第二方を用いる)。

 

【二一六条】

陽明病、下血、讝語者、此為熱入血室。但頭汗出者、刺期門、隨其實而寫之、濈然汗出則愈。

陽明病、下血、讝語する者は、此れ熱血室に入ると為す。但だ頭に汗出ずる者は、期門を刺す。其の實に隨(したが)って之を寫す、濈然(しゅうぜん)として汗出づれば則ち愈ゆ。

 

【二一七条】

汗(汗一作臥)出讝語者、以有燥屎在胃中、此為風也。須下者、過經乃可下之。下之若早、語言必亂、以表虛裏實故也。下之愈、宜大承氣湯。八(用前第二方一云大柴胡湯)。

汗(汗一作臥)出でて讝語する者は、燥屎有りて胃中に在(あ)るを以て、此れを風と為すなり。須(すべから)く下すべき者は、過經(かけい)すれば乃ち之を下すべし。之を下すこと若し早ければ、語言必ず亂る。

表虛し裏實するを以ての故なり。之を下せば愈ゆ。大承氣湯に宜し。八(前の第二方を用う。一に大柴胡湯と云う)。

 

【二一八条】

傷寒四五日、脉沈而喘滿。沈為在裏、而反發其汗、津液越出、大便為難。表虛裏實、久則讝語。

傷寒四、五日、脉沈にして喘滿(ぜんまん)す。沈は裏に在ると為す、而(しか)るに反って其の汗を發し、津液越出(えつしゅつ)し、大便難(がた)きを為し、表虛し裏實す。久しければ則ち讝語す。

 

134.陽明病 213条 小承気湯

【二一三条】

陽明病、其人多汗、以津液外出、胃中燥、大便必鞕、鞕則讝語、小承氣湯主之。若一服讝語止者、更莫復服。五(用前第二方)。

陽明病、其の人汗多く、津液外に出で、胃中燥くを以て、大便必ず鞕す。鞕なれば則ち讝語す。小承氣湯之を主る。若し一服にて讝語止む者は、更に復た服することなかれ。五(用前第二方)。

  陽明病で、濈然(しゅうぜん)として発汗するのではなく「その人汗多し」とありますので、大承気湯の全身ぐっしょりとする濈然ほどの汗ではないことが分かります。

 しかしながら、悪熱するほどの発熱があるのですから、胃中が乾いて大便が堅くなるなることを示し、大便が堅くなると讝語が現れる点が注目されます。

 讝語とは、心神が熱に脅かされて訳の分からないことを口ばしる状態ですから、この場合の熱は中焦の実熱ですから、通腑することで清熱して治めるのですね。

 ですから、小承気湯を服用して快利を得た後に讝語が治まるのをひとつの節目として後服を止めると記しています。

 反対に、下痢が見られたのちも、発熱・讝語が治まらない場合は、後服を進めることになります。

 

133.陽明病 212条 大承気湯

 【二一二条】

傷寒若吐、若下後不解、不大便五六日、上至十餘日、日晡所發潮熱、不惡寒、獨語如見鬼狀。

若劇者、發則不識人、循衣摸牀、惕而不安(一云順衣妄撮怵惕不安)、微喘直視、脉弦者生、濇者死。

微者、但發熱讝語者、大承氣湯主之。若一服利、則止後服。四(用前第二方)。

傷寒、若しくは吐し、若しくは下したる後解(げ)せず、大便せざること五、六日、上は十餘日に至り、日晡所潮熱(にっぽしょちょうねつ)を發し、惡寒せず、獨語(どくご)して鬼狀を見るが如し。

若し劇しき者は、發すれば則ち人を識(し)らず、循衣摸牀(じゅんいもしょう)、惕(てき)して安(やすら)かならず(一云順衣妄撮怵惕不安)、微喘(びぜん)して直視す。脉弦の者は生き、濇(しょく)の者は死す。

微(び)の者、但だ發熱讝語(せんご)する者は、大承氣湯之を主る。若し一服にて利せば、則ち後服(こうふく)を止む。四(用前第二方)。

 さっと条文に目を通して頂くと、かなり切迫した病態が読み取れるのではないでしょうか。

 この条文、三段に分けて意訳してみます。

①傷寒に罹って表証より裏そ攻めるべき証があったので、吐下を施したが病態は良くならない。

 その後5・6日から10余日便秘が続き、夕方になると発熱するようになっている。

 すでに悪寒は無く、なにやら幻覚を見ているのか独り言をするようになった。

②突然病勢がはげしくなると、人を識別できなくなり衣服や寝具をまさぐるような重篤なしぐさをしている。

 幻覚を見ているためなのか、恐れて安んじていることが出来ず、かすかに喘いでいるが、目は直視して動かない。

 脈が弦であれば助かるが、濇であれば死亡する。

③微で、ただ発熱してうわごとを言うものは、大承気湯証である。

 大承気湯を一服して排便があれば、後服は留め置くのがよい。

 

 以上が条文に沿った意訳ですが、②の脈弦であれば生きるが濇であれば死すというのは、経験が無いのでなんとも言い難いところです。

 そのまま解釈すれば、弦脈は正邪が拮抗している姿で、濇脈は正気が邪気と拮抗できない姿とすると理に合いますね。

 そして③の微ですが、これを脈象とと捉えるか①の証候が軽度であることを示しているのかが分かりにくいのですが、大承気湯で攻下するのですから、やはり脈象ではなく、ただ発熱・讝語だけが見られる軽度な症状と理解するのが妥当だと考えられます。

 しかし攻下するのですから、やはり燥屎は存在しているはずです。

 腹証奇覧翼の図です。大実満で硬い腹証です。

   

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 一方で、下図のように大実満でないものの、燥屎の存在がある場合を現した場合もあり、燥屎の存在が大承気湯の目標になるようです。

 

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 上図の解説文を要約しますと、心下は硬く実満して塊のようで、押さえると実痛。

 そして右の少腹には石を袋に入れたかのような塊が指頭に応ずるのは、燥屎であるとあります。

 また讝語と鄭声を鑑別していまして、讝語とはたわごとを言う者で実。

 勢い無く分かり難くグズグズと小言を言うようなものは、鄭声で虚であるとしています。

132.陽明病 209~211条 轉失氣 大・小承気湯

【二〇九条】

陽明病、潮熱、大便微鞕者、可與大承氣湯。不鞕者、不可與之。

若不大便六七日、恐有燥屎、欲知之法、少與小承氣湯、湯入腹中、轉失氣者、此有燥屎也、乃可攻之。

若不轉失氣者、此但初頭鞕、後必溏、不可攻之、攻之必脹滿不能食也。

欲飲水者、與水則噦。其後發熱者、必大便復鞕而少也、以小承氣湯和之。不轉失氣者、慎不可攻也。小承氣湯。三(用前第二方)。

陽明病、潮熱し、大便微(すこ)しく鞕なる者は、大承氣湯を與うべし。鞕ならざる者は、之を與うべからず。

若し大便せざること六、七日なれば、恐らくは燥屎(そうし)有り。之を知らんと欲するの法は、少しく小承氣湯を與え、湯腹中に入り、轉(てん)失氣する者は、此れ燥屎有るなり、乃(すなわ)ち之を攻むべし。

若し轉失氣せざる者は、此れ但(た)だ初頭(しょとう)鞕く、後必ず溏(とう)す、之を攻むべからず。之を攻むれば、必ず脹滿し食すること能わざるなり。

水を飲まんと欲する者に、水を與えれば則ち噦(えつ)す。其の後發熱する者は、必ず大便復(ま)た鞕くして少なきなり、小承氣湯を以て之を和す。轉失氣せざる者は、慎んで攻むべからざるなり。小承氣湯。三(用前第二方)。

  この条文も長いですので、いくつかに分けて意訳します。

 ①陽明病となって潮熱が現れ、大便が少し硬くなった場合は大承気湯を与えるべきであるが、硬くなければ与えるべきでない。

 ②もし陽明病で潮熱が現れた上に、6~7日間便秘しているようであれば、恐らくすでに燥屎が形成されているであろう。

 慎重を期してこれを確認する方法は、小承気湯を与えてみて腸胃が動いて転失気=放屁するようであれば、燥屎ありとして大承気湯で攻下すべき証である。

 ③ところが放屁しないものが大便をすると、最初は硬いようでも最後になって泥状便となるものである。このような者は、太陰病であるから攻下してはならない。

 もし誤って攻下してしまったのなら、お腹は脹滿となり食べることさえできない状態となる。

 ④大承気湯で誤まって攻下してしまった後、水を飲みたがり飲水すると、噦(えつ)=しゃっくりするようになる。

 さらにその後、また潮熱するようになれば、必ず大便は硬くしかも量が少ないものである。このような場合、少し正気が回復してきたのであるから、小承気湯で胃気を和してやると良い。

 

 大承気湯証の場合、潮熱のために全身がじっとりとなるくらい発汗するので、大便も硬くなることは、理解できると思います。

 ところが、大承気湯と太陰病をあえて鑑別しなければならない病態もあると言う事をこの条文では述べているのだと思います。

 大承気湯で攻下する場合は、慎重にということだと思います。

 210条・211条は原文と読み下し文のみの掲載です。

 

【二一〇条】

夫實則讝語、虛則鄭聲。鄭聲者、重語也。直視、讝語、喘滿者死、下利者亦死。

夫(そ)れ實すれば則ち讝語(せんご)し、虛すれば則ち鄭聲(ていせい)す。鄭聲なる者は、重語(じゅうご)なり。直視し、讝語(せんご)し、喘滿(ぜんまん)する者は死す。下利する者も亦た死す。

 

【二一一条】

發汗多、若重發汗者、亡其陽、讝語、脉短者死。脉自和者不死。

汗を發すること多く、若し重ねて發汗する者は、其の陽を亡(なく)し、讝語(せんご)す。脉短(たん)の者は死す。脉自(おのずか)ら和す者は死せず。

131.陽明病 208条 大承気湯と小承気湯

【二〇八条】

陽明病、脉遲、雖汗出不惡寒者、其身必重、短氣、腹滿而喘、有潮熱者、此外欲解、可攻裏也。手足濈然汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之。

若汗多、微發熱惡寒者、外未解也(一法與桂枝湯)。其熱不潮、未可與承氣湯。

若腹大滿不通者、可與小承氣湯、微和胃氣、勿令至大泄下。大承氣湯。方二。

陽明病、脉遲(ち)、汗出ずると雖も、惡寒せざる者は、其の身必ず重く、短氣し、腹滿して喘(ぜん)し、潮熱有る者は、此れ外解(げ)せんと欲す、裏を攻むべきなり。手足濈然(しゅうぜん)として汗出づる者は、此れ大便已(すで)に鞕(こう)なり、大承氣湯(だいじょうきとう)之を主る。

若し汗多く、微(すこ)しく發熱惡寒する者は、外未(いま)だ解せざるなり(一法與桂枝湯)。其れ熱潮せずんば、未だ承氣湯を與うべからず。

若し腹大いに滿ちて通せざる者は、小承氣湯を與え、微(すこ)しく胃氣を和すべし、大いに泄下(せつか)に至らしむことなかれ。大承氣湯。方二。

 長い条文ですので、いくつかに分けて意訳します。

 ①陽明病で、脉遅である。発汗しているにもかかわらず悪寒しなくても、身体は必ず重く感じているはずである。

 呼吸が促迫し腹が満であって喘いでおり、潮熱が現れている場合は、すでに表証が解けようとしている姿である。

 そして手足にぐっしょりと汗が出ている場合は、すでに大便も硬くなっているのであるから、大承気湯証である。

 ②同じように発汗していても、発熱と悪寒がある場合は、まだ表証が解けていない。 

 さらにその発熱も、潮熱とはなっていないのであるから、まだ承気湯類で裏を攻めるべきではない。

 ③もし表証が解け、腹が大いに満となって大便が通じない場合は、小承気湯を与えて少し胃気を和すべきである。大いに攻下してはならない。

 

 陽明病で脉遅になるのは邪実が気機を阻むためで、一般的には有力とされています。

 ところが時に脉遅弱の場合もありますので、脉証だけで判断するのはやはり過誤を来しやすいので、問診など他の診法からの情報を参伍するのが安全です。

 ここは常と変、陰陽の転化、仮証としての認識概念をしっかりと持ち得ておくところです。

 そしてその後に続く症候は陽明病の典型的な正証として記憶しておくのが良いと思います。

  腹診図は、腹証奇覧・腹証奇覧翼に各2枚あります。

 今回、腹証奇覧から2枚掲載します。

 以下の図、横からのものですが、堅満とあります。

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 また以下の図では、任脈上に緊張が現れています。

 

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 上図の解説文を見ますと、腹の中央に長くて硬いものがあり、中風脹滿、労瘵などの病にもこの証があり、何病であるかを問わず、腹底中央深く按じて底に長い形のあるものはすべて大承気湯証であると記されています。

 攻下の威力のある方剤ですが、当時は慢性的な病にも用いて効かを得ていたことが分かります。

 さて、いくつかの証候の内、潮熱について解説しておきます。

 <中国漢方医語辞典>から引用します。

 「発熱に潮の干満と同じように定まった時間があり、毎日一定の時間が来ると体温が上昇する。(一般には多く午後に現れる)潮熱の病因にはおおよそ三つある。

 1)体内の陰液の不足によるもので、夜になるたびに発熱、盗汗がある。これを陰虚潮熱と呼ぶ。

 2)陽気が湿邪に抑制されることによるもので、午後に発熱が現れる。これを湿温潮熱と呼ぶ。

 3)熱邪が陽に凝結することによるもので、これもまた毎日午後に発熱する、これを陽明の日晡潮熱という。

 このほか温病が営分あるいは血分に伝わる段階には、身熱は往々午後次第に上昇するが、この種の熱型は潮熱とは呼ばず、熱入営分(熱が営分に入る)とか熱入血分(熱が血分に入る)とかいう。」

 大承気湯証で現れる潮熱は、3)に相当して午後の夕刻に潮熱を発します。

 そして「胃家実」によって病邪が凝結しているので全身にぐっしょりとした発汗がみられるので、陰液不足となり大便鞕、燥屎の出口までが塞がれていることが分かります。

 ②の場合は、発熱していても潮熱となっておらず、しかもまだ悪寒があるので、「胃家実」であっても、先表後裏の原則に従って表証を先に解くべきことを述べたものです。

 ③では小承気湯で胃気を和すべき証について述べられているのですが、腹大満で不通は、大承気湯証と共通証候で程度の差だと思います。

 このような場合は、方剤構成を比較すると見えてきますね。

 大承気湯 大黄四両 厚朴半斤 枳実五枚 芒硝三合

 小承気湯 大黄四両 厚朴二両 枳実三枚

 結実の毒を通利する大黄は共に四両。

 この場合、酒洗大黄を用いていますので、猛攻の剤となりますね。

 胸腹の脹滿を主冶する厚朴は、1斤=5両とすると、小/大=3/5

 結実の毒を主冶する枳実の割合もまた、厚朴と同じ。

 そして堅を耎(やわら)かにするを主る芒硝は、小承気湯には配されていません。

 大承気湯証と小承気湯証は、次の条文に見えるように燥屎の有無もまた鑑別点のひとつになります。

 ここまで比較して記しますと、これ以上解説は必要ないですね。

〔大承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 厚朴(半斤炙去皮) 枳實(五枚炙) 芒消(三合)

右四味、以水一斗、先煮二物、取五升、去滓。内大黄、更煮取二升、去滓。内芒消、更上微火一兩沸、分温再服。得下、餘勿服。

大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(半斤、炙り、皮を去る) 枳實(きじつ)(五枚、炙る) 芒消(三合)

右四味、水一斗を以て、先ず二物を煮て、五升を取り、滓を去る。大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去る。芒消を内れ、

更に微火に上(の)せ、一、兩沸し、分かち温め再服す。下(げ)を得れば、餘は服すことなかれ。

 

〔小承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 厚朴(二兩炙去皮) 枳實(三枚大者炙)

右三味、以水四升、煮取一升二合、去滓、分温二服。初服湯當更衣、不爾者盡飲之。若更衣者、勿服之。

大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(二兩、炙り、皮を去る) 枳實(三枚、大なる者、炙る)

右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め二服す。初め湯を服して當(まさ)に更衣すべし、爾(しか)らざる者は、盡(ことごと)く之を飲む。若し更衣する者は、之を服すなかれ。

 

活動報告ー5月 2018年度 基礎講座

 5月13日、朝から降り続く雨の中、今年度2回目の「東洋基礎医学講座」を開催いたしました。

 基礎講座は、永松副代表の易学講座から始まるのが定例なのですが、今回は稻垣座長の受け持ち患者さんが調子を崩されているとのこと。もしかしたら往診に向かわなくてはならない・・という状況を考慮して、座長の「一の会式・東医理論」からのスタートとなりました。

 

 座長として2年目を迎えました稻垣先生、こなれた感じに加えて、座長としての貫禄めいたものも漂ってきたと感じております。

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 理論を実際の臨床に用いるには、まずイメージ化して心になじませることが重要です。

 東洋医学理論においては、衛気・営気、元気・宗気など、様々な種類の「気」の概念が説かれていますが、本来は「気一元」です。

 それを見事に図示して見せてくれました。

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 気の作用は、理論上四つに分けられています(推動・気化・固摂・温煦)が、本来の気の働きは「動かす」こと。

 つまりは「推動」が最も中心的な働きであると捉えます。

 推動の流れの向きを変えることによって「固摂」されます。

 感情や大小便を漏らさないようにするときのイメージです。

 そのことによって熱が生まれ「温煦」作用として働いたり、ものを変化させる「気化」作用が生まれます。

 

 本来分けられないものを、便宜上分けて認識する。これをまた再び「一」として再認識することが、臨床ではとても重要です。

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 例えば、「生命」という太極を認識するために、「正気」と「邪気」の両儀を立てる。

 正気と邪気をさらに陽気・陰気、陽邪・陰邪の四象に発展させる。

 そこからさらに八卦に分けて・・・そしてまた元の太極に戻る・・・というような切り口には、いつもながら感心させられます。

 

 また「気」について、体幹の気と末梢の気という両儀を立て、同様のプロセスを経て再び太極に戻る。

 

 この捉え方を用いると、様々な変化が「一」に集約され、1本の鍼になります。

 

 「鍼道 一の会」の基礎講座は、入門講座ではありません。

 臨床に繋がる基礎医学として位置付けていますので、教科書的な机上の内容ではなく、あくまでもリアリティーを重視しています。

 

 そして午後からは永松副代表による、治療家のための「身体学」、そして易学講義です。

 身体学は実際に身体を動かしますので、お昼休憩後の腹ごなしにもうってつけです。

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 今回も、六字訣の中から3つを伝授してくださいました。

 日々、この所作を行いたいものです。

 

 そして易学講義。

 今回は、易学とは何か?その歴史と基礎をなす部分について。

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 今年度初めて参加された方からは、聞き慣れない単語が多くて理解できない・・・という声が届いています。

 どなたも最初は同じです。

 先ずは習うより慣れる、ですね。

 

 易の三義(変易・不易・簡易)については、議論が噴出しまして、置いてきぼりになったという声も届いておりますので、会員用ブログで再度フォローいたします。

 

 そのほか、易の四つの基本原則と演変など、分かってしまえば簡単なことなのですが、なかなかとっつき難いことでもあります。

 が、今期1年かけて少しずつ進めて参りますし、フォローもありますので、会員のみなさまは動画で復習などしながら、是非ともついて来てください。

 

 続いては、雨後の竹の子の如く(?)成長著しい、江見木綿子先生による臓象生理学。

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 今回は、肺の臓と大腸の腑です。 

 一の会教科書「時空と臓象経絡」を用いて、簡潔にまとめて解説。

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 非常によく教科書を読みこみ、やはり臨床に即した理解を求めている姿に、筆者金澤は嬉しく、また感心させられます。

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 例えば、肺の臓の機能として、宣発(宣散)と粛降という真逆の気の向き・働きがあります。

 江見先生は、粛降作用にこそ肺の本来の働きがあるのであって、宣発作用に関しては、むしろ他臓の協調的な作用こそがそれを可能にしているのだと。

 肺の臓はただその作用が行われる舞台を為しているのではないか、と説かれました。

 それは、喘息などの呼吸器の病を治療する場合、肺の臓よりもむしろ他臓を治療しなければ治らないことも含めての解説でした。

 これで「一の会教科書」も、新たに書き加える項目が増えたことになります。^^

 

 お次は経絡学です。

 今回、初めて講義を担当してくださいました新妻先生。

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 かなり緊張されていましたが、ご自身で出来る精いっぱいの勉強をしてきておられました。

 人前で話すには、自分の中で十二分にこなれている必要がありますし、また勇気も必要です。思うように話せないことも多々あります。

 しかしながらその体験は、自分自身の理解・学びを深めてくれます。

 新しいことや役割にチャレンジする・・・これだけでも素晴らしいのです!

 

 「鍼道 一の会」では、参加者のみなさまに、随時こうした機会を設けております。

 もちろん、講師全員でフォロー致します。

 我こそはと思われる方は是非!ご自身の学びのためのチャレンジをお待ちしております。

 

 そして最後の最後に少しだけ、筆者金澤も登場させて頂きました。

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 金澤にとって、みんなで集まって共に学ぶことはとても楽しく、幸せな時間でもあります。

 

 会員のみなさま、雨の中お疲れさまでした。ありがとうございました。

 またお会いいたしましょう!!

 

 

 次回、『鍼道 一の会』臨床医学講座は5月27日(日)です。

(大阪・南森町の大阪医療技術学園専門学校実技室をお借りして、開催させていただきます。)

 

 『鍼道 一の会』は、随時入会を受け付けております。

 興味が湧いた、面白そう、ピン!と来た方、どうぞお問い合わせください。

 お問い合わせは

 『鍼道 一の会』 事務局 大上(おおがみ)まで

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131.陽明病 207条 調胃承気湯 要鑑別

【二〇七条】

陽明病、不吐、不下、心煩者、可與調胃承氣湯。方一。

陽明病、吐さず、下さず、心煩する者は、調胃承氣湯を與うべし。方一。

  この条文は、前回180条を加味して読んで頂ければと思います。

 吐かない=少陽病ではない、下痢しない=少陰病でもない、そして胃家実で心煩が現れたら、調胃承気湯証ですよと述べています。

 ちなみに、心煩は小柴胡湯証や猪苓湯にも現れます。

 また梔子豉湯の心煩は、吐下の後に現れているので、虚煩でした。

 この条文は、やはり他の証と鑑別することを暗に求めているのだと思います。 

 調胃承気湯の方意に関しては、下記過去ブログですでに述べていますので、復習しておいて下さればと思います。

 33.太陽病(上)29条 疑似桂枝湯証と壊病(3)

〔調胃承氣湯方〕

甘草(二兩炙) 芒消(半升) 大黄(四兩清酒洗)

右三味、切、以水三升、煮二物至一升、去滓、内芒消。更上微火一二沸、温頓服之、以調胃氣。

甘草(二兩、炙る) 芒消(半升) 大黄(四兩、清酒もて洗う)

右三味、切り、水三升を以て、二物を煮て一升に至り、滓を去り、芒消を内れ。更に微火(びか)に上(の)せて一、二沸し、温めて之を頓服し、以て胃氣を調う。

130.陽明病 179∼206条 陽明病の綱領

 陽明病篇に入って、いきなりですが後人の覚書などの攙入が多いと思われますので、陽明病の綱領となる180条のみの解説に致します。

【一八〇条】

陽明之為病、胃家實(一作寒)是也。

陽明の病為(た)るや、胃家實(一作寒)是れなり。

 これが陽明病の綱領なのですが、太陽病に比べて、実に簡素に記されています。

 このことの意味は、陽明病位の脉証なり症候が複雑多岐にわたるので、最大公約数的にしか表現できないためだろうと考えられます。

 さて、この「胃家実」とは、何を表現しているのでしょうか。

 <中国漢方医語辞典>によりますと、

 「胃家とは、大腸・小腸の略称である。胃家実とは、邪熱が陽明に結ばれ、津液が傷つけられて現れる症候である。

 主要な症状は壮熱、煩渇、ひどく汗が出る、脈象は洪大などである。

 邪熱と腸の中の糞便が結ばれることによって潮熱が出、便秘する、腹が痛み手で押さえるのを拒むなどの症状を呈する」とあります。

 太陽病位から病が伝変して陽明病位に達すると、悪寒は無くなり悪熱するようになり、口渇や腑実証が現れるので、腹症もまた実満を呈するようになります。

 その他の症候に関しては、これから条文を追って一緒に見ていきたいと思います。

 179条から206条までは、原文と読み下し文のみの掲載です。

【一七九条】

問曰、病有太陽陽明、有正陽陽明、有少陽陽明、何謂也。答曰、太陽陽明者、脾約(【一云絡)是也。正陽陽明者、胃家實是也。少陽陽明者、發汗、利小便已、胃中燥、煩、實、大便難是也。

 

問いて曰く、病に太陽陽明有り、正陽陽明有り、少陽陽明有りとは、何の謂(い)いぞや。

答えて曰く、太陽陽明なる者は、脾約(ひやく)(一云絡)是れなり。

正陽の陽明なる者は、胃家實是れなり。少陽陽明なる者は、汗を發し、小便利し已(おわ)り、胃中燥き、煩し、實し、大便難是れなり。

 

【一八〇条】

陽明之為病、胃家實(一作寒)是也。

陽明の病為(た)るや、胃家實(一作寒)是れなり。

 

【一八一条】

問曰、何緣得陽明病。答曰、太陽病、若發汗、若下、若利小便、此亡津液、胃中乾燥、因轉屬陽明。不更衣、内實大便難者、此名陽明也。

問いて曰く、何に緣(よ)りて陽明病を得るや。。答えて曰く、太陽病、若しくは汗を發し、若しくは下し、若しくは小便利す。此れ津液を亡(なく)し、胃中乾燥し、因(よ)りて陽明に轉屬す。更衣せず、内實し大便難の者は、此れを陽明と名づく。

 

【一八二条】

問曰、陽明病外證云何。答曰、身熱、汗自出、不惡寒反惡熱也。

問いて曰く、陽明病の外證とは何を云うや。答えて曰く、身熱し、自ずと汗出で、惡寒せず、反って惡熱するなり。

 

【一八三条】

問曰、病有得之一日、不發熱而惡寒者、何也。答曰、雖得之一日、惡寒將自罷、即自汗出而惡熱也。

問いて曰く、病之を得ること一日、發熱せずして惡寒する者有りとは、何ぞや。答えて曰く、之を得ること一日と雖も、惡寒し將(まさ)に自ら罷(や)まんとするは、即ち自ずと汗出でて惡熱するなりと。

 

【一八四条】

問曰、惡寒何故自罷。答曰、陽明居中、主土也。萬物所歸、無所復傳。始雖惡寒、二日自止、此為陽明病也。

問いて曰く、惡寒何が故(ゆえ)に自ら罷(や)むと。答えて曰く、陽明は中に居きて、土を主るなり。萬物の歸(き)する所にして、復た傳わる所無しと。始め惡寒すると雖も、二日に自ずと止む。此れ陽明病と為すなり。

 

【一八五条】

本太陽、初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明也。傷寒發熱、無汗、嘔不能食、而反汗出濈濈然者、是轉屬陽明也。

本(もと)太陽、初め病を得る時、其の汗を發し、汗先ず出づるも徹せず、因りて陽明に轉屬するなり。傷寒、發熱、汗無く、嘔して食すること能わず。而るに反って汗出ずること濈濈(しゅうしゅう)然たる者は、是れ陽明に轉屬するなり。

 

【一八六条】

傷寒三日、陽明脉大。

傷寒三日、陽明の脉大。

 

【一八七条】

傷寒脉浮而緩、手足自温者、是為繫在太陰。太陰者、身當發黄。若小便自利者、不能發黄。至七八日、大便鞕者、為陽明病也。

傷寒、脉浮にして緩、手足自ら温なる者は、是れ太陰に在りて繫(かか)ると為す。太陰の者、身當(まさ)に黄を發すべし。若し小便自利する者は、黄を發すること能わず。七、八日に至り、大便鞕(かた)き者は、陽明病と為すなり。

 

【一八八条】

傷寒轉繫陽明者、其人濈然微汗出也。

傷寒、轉じて陽明に繫(かか)る者は、其の人濈然(しゅうぜん)として微(すこ)しく汗出ずるなり。

 

【一八九条】

陽明中風、口苦、咽乾、腹滿、微喘、發熱、惡寒、脉浮而緊。若下之、則腹滿小便難也。

陽明の中風、口苦く、咽乾き、腹滿し、微(かす)かに喘(ぜん)し、發熱し、惡寒し、脉浮にして緊。若し之を下せば、則ち腹滿し、小便難なり。

 

【一九〇条】

陽明病、若能食、名中風。不能食、名中寒。

陽明病、若し能(よ)く食するは、中風と名づく。食すること能わざるは、中寒と名づく。

 

【一九一条】

陽明病、若中寒者、不能食、小便不利、手足濈然汗出、此欲作固瘕、必大便初鞕後溏。所以然者、以胃中冷、水穀不別故也。

陽明病、若し中寒する者は、食すること能わず、小便不利し、手足濈然(しゅくぜん)汗出ず。此れ固瘕(こか)を作(な)さんと欲す。必ず大便初め鞕く、後溏(とう)す。然る所以の者は、胃中冷え、水穀別たざるを以ての故なり。

 

【一九二条】

陽明病、初欲食、小便反不利、大便自調、其人骨節疼、翕翕如有熱狀、奄然發狂、濈然汗出而解者、此水不勝穀氣、與汗共并、脉緊則兪。

陽明病、初め食を欲し、小便反って利せず、大便自ら調う、其の人骨節疼(うず)き、翕翕(きゅうきゅう)として熱狀有るが如く、奄然(えんぜん)として狂を發し、濈然(しゅうぜん)として汗出でて解する者は、此れ水穀氣に勝たず、汗と共に并(あわ)さり、脉緊なれば則ち兪ゆ。

 

【一九三条】

陽明病、欲解時、從申至戌上。

陽明病、解せんと欲する時は、申(さる)從(よ)り戌(いぬ)の上に至る。

 

【一九四条】

陽明病、不能食、攻其熱必噦。所以然者、胃中虛冷故也。以其人本虛、攻其熱必噦。

陽明病、食すること能わざるに、其の熱を攻むれば必ず噦(えっ)す。然る所以(ゆえん)の者は、胃中虛冷するが故なり。其の人本(もと)虛するを以て、其の熱を攻むれば必ず噦す。

 

【一九五条】

陽明病、脉遲、食難用飽。飽則微煩頭眩、必小便難、此欲作穀癉、雖下之、腹滿如故。所以然者、脉遲故也。

陽明病、脉遲、食を用いて飽き難し。飽けば則ち微煩(びはん)、頭眩(ずげん)し、必ず小便難。此れ穀癉(こくたん)を作(な)さんと欲す。之を下すと雖も、腹滿故(もと)の如し。然る所以の者は、脉遲なるが故なり。

 

【一九六条】

陽明病、法多汗、反無汗、其身如蟲行皮中狀者、此以久虛故也。

陽明病、法は汗多きに、反って汗無く、其の身蟲(むし)の皮中を行く狀の如き者は、此れ久しく虛するを以ての故なり。

 

【一九七条】

陽明病、反無汗而小便利、二三日嘔而欬、手足厥者、必苦頭痛。若不欬、不嘔、手足不厥者、頭不痛。(一云冬陽明)

陽明病、反って汗無くして小便利し、二、三日嘔して欬(がい)し、手足厥する者は、必ず頭痛を苦しむ。若し欬せず、嘔せず、手足厥せざる者は、頭痛まず。(一云冬陽明)

 

【一九八条】

陽明病、但頭眩、不惡寒。故能食而欬、其人咽必痛。若不欬者、咽不痛。(一云冬陽明)

陽明病、但だ頭眩(ずげん)して、惡寒せず。故に能(よ)く食して欬し、其の人咽(のど)必ず痛む。若し欬せざる者は、咽痛まず。(一云冬陽明)

 

【一九九条】

陽明病、無汗、小便不利、心中懊憹者、身必發黄。

陽明病、汗無く、小便不利し、心中懊憹(おうのう)する者は、身必ず黄を發す。

 

【二〇〇条】

陽明病、被火、額上微汗出、而小便不利者、必發黄。

陽明病、火を被(こおむ)り、額上(がくじょう)微(すこ)しく汗出でて、小便不利する者は、必ず黄を發す。

 

【二〇一条】

陽明病、脉浮而緊者、必潮熱發作有時。但浮者、必盗汗出。

陽明病、脉浮にして緊の者は、必ず潮熱し、發作に時(とき)有り。但だ浮の者は、必ず盗汗(とうかん)出ず。

 

【二〇二条】

陽明病、口燥但欲漱水、不欲嚥者、此必衄。

陽明病、口燥(かわ)き、但だ水を漱(すす)がんと欲し、嚥(の)むことを欲せざる者は、此れ必ず衄(じく)す。

 

【二〇三条】

陽明病、本自汗出。醫更重發汗、病已差、尚微煩不了了者、此必大便鞕故也。以亡津液、胃中乾燥、故令大便鞕。當問其小便日幾行、若本小便日三四行、今日再行、故知大便不久出。今為小便數少、以津液當還入胃中、故知不久必大便也。

陽明病、本(もと)自ずと汗出ず。醫更に重ねて汗を發し、病已(すで)に差(い)ゆるも、尚(な)お微煩して了了とせざる者は、此れ必ず大便鞕(かた)きが故なり。津液を亡(なく)し、胃中乾燥するを以ての故に、大便をして鞕からしむ。當に其の小便日に幾行(いくこう)なるかを問うべし。若し本(もと)小便日に三、四行なるに、今日に再行す。故に大便久しからずして出づるを知る。今、小便の數(かず)少なきが為に、津液當に還(めぐ)りて胃中に入るべきを以ての故に、久しからずして必ず大便するを知るなり。

 

【二〇四条】

傷寒嘔多、雖有陽明證、不可攻之。

傷寒、嘔多きは、陽明の證有りと雖も、之を攻む可からず。

 

【二〇五条】

陽明病、心下鞕滿者、不可攻之。攻之、利遂不止者死。利止者愈。

陽明病、心下鞕滿(こうまん)する者は、之を攻むべからず。之を攻め、利遂(つい)に止まざる者は死す。利止む者は愈ゆ。

 

【二〇六条】

陽明病、面合色赤、不可攻之。必發熱、色黄者、小便不利也。

陽明病、面色赤きを合するは、之を攻むべからず。必ず發熱す。色黄の者は、小便利せざるなり。

129.太陽病(下)176∼177条 虚労病 炙甘草湯方意 

〔炙甘草湯方〕

甘草(四兩炙) 生薑(三兩切) 人參(二兩) 生地黄(一斤) 桂枝(三兩去皮) 阿膠(二兩) 麥門冬(半升去心) 麻仁(半升) 大棗(三十枚擘)

右九味、以清酒七升、水八升、先煮八味、取三升、去滓、内膠消盡、温服一升、日三服。一名復脉湯。

甘草(四兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 人參(二兩) 生地黄(しょうじおう)(一斤) 桂枝(三兩、皮を去る) 阿膠(あきょう)(二兩) 麥門冬(ばくもんどう)(半升、心を去る) 麻仁(まにん)(半升) 大棗(三十枚、擘く)

右九味、清酒七升、水八升を以て、先ず八味を煮て、三升を取り、滓を去り、膠(きょう)を内れて烊消(ようしょう)し盡(つく)し、一升を温服し、日に三服す。一に、復脉湯(ふくみゃくとう)と名づく。

  前回、炙甘草湯は、桂枝去芍薬湯に人参、生地黄、阿膠、麦門冬、麻子仁を加えた湯液であると記しました。

 今回新しく登場しました、地黄、阿膠、麦門冬、麻子仁の薬能を先ずは記します。

 

地黄 

 中医学では、生地黄と酒で蒸し晒した熟地黄とに分けて薬能が記されている。

・生地黄 気味 甘苦 寒 

中薬学:清熱滋陰 凉血止血 生津止渇

・熟地黄 気味 甘 微温

中薬学:補血調経 滋腎益精 

薬徴:血証及び水病を主冶するなり。※血証…出血・貧血などの血の方から来る証

新古方薬嚢:味甘寒血の熱を涼し出血を止めよく肌肉を潤ほし養ふ、故に腎気丸、三物黄芩湯、黄土湯、膠艾湯、炙甘草湯等に用いらる。此れ等は皆血を治する所にあるが故と見るべし。

阿膠 気味 甘 平
中薬学:補血 滋陰 止血 清肺潤燥
新古方薬嚢:味甘平肌肉の傷れを治し急を緩るむることを主ると。故に出血を止め煩を去る。

麦門冬 気味 甘 微苦 微寒

中薬学:清肺潤肺・止咳 養胃生津 清心除煩 潤腸通便

新古方薬嚢:味甘平咳を鎮め咽喉の通りを好くし、熱を去る。特に虚弱の者の咳き込み、微熱等を除く効あり。

麻子仁 気味 甘平
中薬学:潤腸通便・滋養補虚
新古方薬嚢:味甘平内熱によりて燥き固まれるを潤ほしやはらぐるの効あり。

 

 ざっと見ますと、地黄、阿膠、麦門冬、麻子仁は陰気を増して潤すことが分かると思います。

 地黄と阿膠は、ともに止血作用がありますので、水を泥に化して精血の流れを堰き止めるといったイメージでしょうか。

 あと煎じ方に、清酒七升と水八升で煎じるとありますので、陽気もまた鼓舞していることが分かります。

 また人参は「心下痞堅 痞寇 支結を主治す」でした。心下に水を集めてくるのですね。

 そうしますと、陰液・陰血を心下に集めて桂枝去芍薬湯と清酒で強力に上焦に持って挙げ、心肺を扶けようとする姿が見えてきます。

 <中医臨床のための方剤学>では、益気滋陰、通用復脈として、心陰陽両虚・肺気陰両虚に用いていますので、病態としては把握できると思います。

 178条は、原文と読み下し文のみの掲載です。

 これで太陽病(下)は終わり、いよいよ次回からは陽明病です。

 

一七八

脉按之来緩、時一止復来者、名曰結。又脉来動而中止、更来小數、中有還者反動、名曰結、陰也。脉来動而中止、不能自還、因而復動者、名曰代、陰也、得此脉者必難治。

脉之を按じるに来ること緩(かん)、時に一止(いっし)して復た来る者を、名づけて結と曰う。又、脉来ること動にして中止し、更に来ること小數(しょうさく)、中に還ること有る者の反って動ずるを、名づけて結(けつ)と曰う。陰なり。脉来ること動にして中止し、自(おのずか)ら還ること能わず、因(よ)りて復た動ずる者を、名づけて代(たい)と曰う、陰なり。此の脉を得る者は必ず治し難し。

 

128.太陽病(下)176∼177条 白虎湯 炙甘草湯

 いよいよ太陽病(下)の最後となりました。

一七六

傷寒脉浮滑、此以表有熱、裏有寒、白虎湯主之。方三十八。

傷寒脉浮滑なるは、此れ表に熱有り、裏に寒有るを以て、白虎湯之を主る。方三十八。

  この条文中の此以表有熱、裏有寒」は、注釈文か何かの錯簡が紛れ込んだのだろうと言われています。

 ですから単に「傷寒、脉浮滑、白虎湯之を主る」で良いと思います。

 傷寒に罹って、白虎湯証に伝変する経緯は書かれていませんが、ここでは脉象だけを示しています。

 他の症候は、過去ブログで、白虎加人参湯を参考にしてください。

 26.太陽病(上)26条 白虎加人参湯 煩渇  

一七七

傷寒脉結代、心動悸、炙甘草湯主之。方三十九。

傷寒脉結代(けったい)、心動悸するは、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)之を主る。方三十九。

 この短い条文をそのまま意訳しますと、傷寒に罹って、脈が結代(不整脈)して動悸がするようになったものは、炙甘草湯証であるということですが、あまりに条文が短いため、病態がよく見えて来ません。

 そこで炙甘草湯方の配剤をみてみると、桂枝去芍薬湯に、人参、生地黄、阿膠、麦門冬、麻子仁を加えたものであることが分かります。

 桂枝去芍薬湯は、「脉促 胸満」がひとつの目標でした。

 20.太陽病(上)21条 桂枝去芍薬湯ー胸満

 ですので、炙甘草湯証は桂枝去芍薬湯の気の動きをベースに、さらに複雑で病態としては重症であると見当をつけることが出来ます。

 しかもまた「急迫を治す」炙甘草が方剤名ですので、切迫した病態が想像できます。

 <金匱要略・血痺虚労病> P285 21条にも記載されています。

 治虛勞不足、汗出而悶、脈結悸、行動如常、不出百日、危急者、十一日死。

 虛勞不足、汗出でて悶し、脈結し悸するを治す。行動常の如くなるも、百日を出でず、危急の者は、十一日にして死す。

 やはり、場合によっては死に至ることもあるようですね。

 ちなみに虚労病について、<中国漢方医語辞典>で調べてみました。

 「虚損労傷の略称で、また労怯ともいう。五臓の諸虚不足によって生ずる多種の疾病の概括でもある。

 先天的に体質が虚弱であり、後天的に失調し、病が長びいて栄養分が失われ、正気が損傷され、久虚が回復しないで、各種の虚弱な証候が現れるものは、すべて虚労の範囲に属する。

 その病変の過程は、大部分が漸次積み重なって形成される。

 病が長びいて体が弱るのが虚、久虚が回復しないものが損、虚損が長びくと労となる。

 虚、損、労とは病状の進展でもあり、また相互に関連している。

 虚労証の範囲は広いので、先人は五労、六極、七傷などという名称でこれを分類している。

 ただしすべての病理変化は、陰虚、陽虚、陰陽両虚などの領域から離れない。」

 少々長い解説ですが、傷寒に罹って炙甘草湯証になる方の素体を知ることが出来ると思います。

 次回、新しく登場した生薬についてひとつひとつ薬能を記して病態の把握を試みます。

〔炙甘草湯方〕

甘草(四兩炙) 生薑(三兩切) 人參(二兩) 生地黄(一斤) 桂枝(三兩去皮) 阿膠(二兩) 麥門冬(半升去心) 麻仁(半升) 大棗(三十枚擘)

右九味、以清酒七升、水八升、先煮八味、取三升、去滓、内膠消盡、温服一升、日三服。一名復脉湯。

甘草(四兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 人參(二兩) 生地黄(しょうじおう)(一斤) 桂枝(三兩、皮を去る) 阿膠(あきょう)(二兩) 麥門冬(ばくもんどう)(半升、心を去る) 麻仁(まにん)(半升) 大棗(三十枚、擘く)

右九味、清酒七升、水八升を以て、先ず八味を煮て、三升を取り、滓を去り、膠(きょう)を内れて烊消(ようしょう)し盡(つく)し、一升を温服し、日に三服す。一に、復脉湯(ふくみゃくとう)と名づく。