ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

46.太陽病(中)42条 外証と桂枝湯

四二

太陽病、外證未解、脉浮弱者、當以汗解、宜桂枝湯。方十二。

太陽病、外證(がいしょう)未だ解(げ)せず、脉浮弱の者は、當(まさ)に汗を以って解(げ)すべし、桂枝湯に宜し。方十二。

 短い条文ですが、表証ではなく外証と表現されています。

 この外証とは、いったい何を指しているのでしょう。

 太陽病ー表証

 少陽病ー半表半裏

 陽明病ー裏証 ですね。

 ところが、外証・内証となるとどうなのでしょう。

 ここは大塚敬節著(1900-1980)「傷寒論論解説」創元社に答えを求めました。

 「外証とは、表証によって生じた裏証を含めた概念で、外証の有無は、下剤の適不適応を決める大切な目標である」と述べられています。

 テキストP130.273条をみてください。

  太陰病の綱領です。

【二七三条】

太陰之為病、腹滿而吐、食不下、自利益甚、時腹自痛。若下之、必胸下結鞕。

太陰の病為(た)るや、腹滿して吐し、食下らず、自利(じり)益々甚だしく、時に腹自ら痛む。若し之を下せば、必ず胸下結鞕(けっこう)す。

 この条文には、錯簡があると思いますので、自利益甚」を移動して並べ替えてみます。

 太陰之為病、腹滿而吐、食不下、時腹自痛。若下之、自利益甚必胸下結鞕。

 この条文中の「腹満、吐、食下らず、時に腹痛」が太陰病の綱領です。

 そして以下の276条では桂枝湯。

 279条では桂枝加芍薬湯と桂枝加大黄湯が挙げられています。

【二七六】

太陰病、脉浮者、可發汗、宜桂枝湯。方一。

太陰病、脉浮の者は、汗を發すべし、桂枝湯に宜し。方一。

【二七九】

本太陽病、醫反下之、因爾腹滿時痛者、屬太陰也、桂枝加芍藥湯主之。大實痛者、桂枝加大黄湯主之。三。

本(もと)太陽病、醫反って之を下し、爾(そ)れに因りて腹滿し、時に痛む者は、太陰に屬するなり。桂枝加芍藥湯(けいしかしゃくやくとう)之を主る。大いに實痛する者は、桂枝加大黄湯(けいしかだいおうとう)之を主る。三。

 太陰病証が現れても、桂枝湯が基本方剤となっています。

 これは、意味深長だと思います。

 上焦と中焦の相互関係・相互交流を、イメージするとよく理解できると思います。

 これらの事から、大塚敬節が主張するように、腹満・便秘など、一見して陽明病と見間違う症候が現れた時に、下すべきなのか汗を取るべきか、明確に判断する必要がある訳です。

 外証の概念についてまとめますと、素体として脾気虚傾向であったものが太陽病に罹り、そのために裏の気機が失調して現れた症候と表証を含めた証であるということですね。

 これらのことを踏まえて、再度42条を意訳してみます。

 太陽病に罹り、表証と腹満・便秘などの裏証が現れ、脈浮弱である。

 これは表証により、裏が影響を受けて現した虚の状態であるから、発汗解肌させると表証だけでなく、自ずと裏が回復し、腹満・便秘も解消し、脈力も有力となって来るであろう。

 279条は、医師が過誤しやすい状態なのでしょうが、解説は太陰病で行います。

 次回、42条を踏まえたうえで43条から解いて参りたいと思います。

45.太陽病(中)41条 服湯已 小青竜湯

四一

傷寒、心下有水氣、而微喘、發熱不

服湯已、者、此寒去欲解也、小青龍湯主之。十一(用前第十方)。

傷寒、心下に水氣有り、欬(がい)して微喘(びぜん)し、發熱して渴せず。

湯を服し已(おわ)り、渴する者は、此れ寒去りて解せんと欲するなり、小青龍湯之を主る。十一(用前第十方)

 40条は傷寒に対して何らかの治療をしたのちに現れた状態であるのに対し、41条は傷寒に罹り、直ちに現れた状態と考えられます。

 心下の水気に続いて咳と喘ぎが記載されていますので、水逆による呼吸器症状が目立っているのでしょう。

 このような場合、中焦の水が上焦に上がってきているので、希薄な鼻水や軽度の顔面浮腫も出ていても不思議ではありません。

 いわゆる溢飮の状態です。

 この溢飮に関しては、47.太陽病(中)40条 小青龍湯(1)金匱の記述をもう一度ご覧頂けたらと思います。

 口渇が無いというのは、内熱が盛んでないか、水邪が陽気を抑え込んでいないことを示しています。

 そして湯を服し終わって口渇が現れるのは、水が除かれて相対的に陽気が盛んになったことを示しています。

 筆者の経験では、口渇というより口乾が現れる感じです。

 もしはっきりとした口渇が現れるのであれば、素体として内熱が盛んであるがために、大量に冷飲水したところに風寒の邪を受けるなどして、急性の溢飮を起こしたのではないかと予測する出来ます。

 小青龍湯を服用し、発汗が始まって口渇が現れ、または解肌した後に飲水を欲するような口渇が残るようであれば、五苓散証や猪苓湯証などを斟酌するのがいいかもしれません。

44.太陽病(中)40条 小青龍湯(4)薬剤吟味

 今回は小青龍湯で新たに出てきた薬剤の解説にとどめます。

 細かく見るときりがないので、ざっくりと参ります。

 ①桂枝・麻黄 辛温で表を解きます。

 ②細辛・乾姜・半夏 辛温で裏の水と痰を動かします。

 酸温の五味子の働きが、今ひとつしっくりとしないのですが、増補薬能では腎の水火を和合させ、気の減り散りたるを治すると記されています。

 他の記述を総合すると、気を引き降ろす作用があるのでしょうか。

 結果として腎納気に働いて咳と冒を治めると考えてみました。

 小青龍湯は瀉剤ですが、酸微寒の芍薬と酸温の五味子を以て補い、瀉法がより有効に働くようにとの配慮ではないかと考えています。

 以下に薬能を知るために調べた内容を記しています。

 半夏に関しては、稻垣先生が大変興味深い解釈をされています。

 中医学では燥湿化痰・豁痰作用と解説されています。

 ところが稲垣先生は、固まった痰を水に戻す気の働きがあるとし、だからその水を動かすために生姜がペアとして使われる場合が多いと解釈されています。

 半夏は有毒なのですが、一般的に生姜は解毒するためにペアとして使われると解説しているものがほとんどで、何となく納得できないものを感じていたのですが、これですっきりとした感じがします。

 以下の薬剤に目を通して頂いて、気の働きをイメージして頂けたらと思います。

細辛 気味辛温

薬徴:細辛主治、宿飲停水也。故に水気心下に在りて咳満し、或いは上逆し、或いは脇痛するを治す。

新古方薬嚢:中を温め、寒を去り、痛みを除き、痰を消し、咳嗽を治す。

・五味子 気味酸温

薬徴:咳而冒するを主る。

新古方薬嚢:咳を治し小便を調え冒を治す。冒とは、鬱冒のことにて頭をすっぽりと被せ包まれたるが如き感じを云う。

・乾姜 気味辛温

生姜を湯通しして干したものと、湯通しせずそのまま干したものがある。

湯通ししたものは、じわじわと深き辛味がある。

そのまま干したものは、直ちに強い辛味がある。

薬徴:結滞水毒を主治する。傍ら嘔吐、咳、下痢、厥冷、煩躁、腹痛、胸痛、腰痛をつちす。

新古方薬嚢:乾姜 散辛化して歛辛となる。生姜は進むことを主り、乾姜は守ることを主る。乾姜は深きを温むる効あり、故に厥を回し下痢を止め嘔を治す。

・半夏 気味辛温

 薬徴:痰飲、嘔吐を主治するなり。傍ら心痛、逆満、咽中痛、咳悸、腹中雷鳴を治す。

新古方薬嚢:気を補い水を去る。故によく嘔吐、腹中雷寧、咳逆などを治す。また咽痛を治す。

 

〔小青龍湯方〕

麻黄(去節) 芍藥 細辛 乾薑 甘草(炙) 桂枝(各三兩去皮) 五味子(半升) 半夏(半升洗)

右八味、以水一斗、先煮麻黄減二升、去上沫、内諸藥。煮取三升、去滓、温服一升。

、去半夏、加樓根三兩。

若微利、去麻黄、加蕘花、如一子、熬令赤色。

若噎者、去麻黄、加附子一枚、炮。

若小便不利、少腹滿者、去麻黄、加茯苓四兩。

若喘、去麻黄、加杏仁半升、去皮尖。

且蕘花不治利、麻黄主喘、今此語反之、疑非仲景意。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。

麻黄(節を去る) 芍藥 細辛(さいしん) 乾薑 甘草(炙る) 桂枝(各三兩、皮を去る) 五味子(半升) 半夏(半升洗う)

右八味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ。煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。

若し渴すれば、半夏を去り、栝樓根(かろこん)三兩を加う。

若し微利(びり)すれば、麻黄を去り、蕘花(じょうか)、一雞子(いちけいし)の如きを熬(い)りて赤色ならしめ加う。

若し噎(いっ)する者は、麻黄を去り、附子一枚を炮(ほう)じて加える。

若し小便不利し、少腹滿する者は、麻黄を去り、茯苓四兩を加える。

若し喘すれば、麻黄を去り、杏仁半升を皮尖を去りて加える。

且つ蕘花(じょうか)は利を治せず、麻黄は喘を主る、今此の語之に反す。疑うは仲景の意にあらず。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。)

43.太陽病(中)40条 小青龍湯(3)「或~」の兼症病理

四〇

傷寒、表不解、心下有水氣、乾嘔、發熱而、或、或利、或噎、或小便不利、少腹滿、或喘者、小青龍湯主之。方十。

傷寒、表解(げ)せず、心下に水氣有り、乾嘔(かんおう)し、發熱して欬(がい)し、或いは渴は(かっ)し、或いは利(り)し、或いは噎(いっ)し、或いは小便不利し、少腹滿し、或いは喘(ぜん)する者は、小青龍湯之を主る。方十。

 

 それでは今回、兼証を起こしている病理を個別に見ていきます。 

 この乾嘔は、12条桂枝湯証の乾嘔とは病理が微妙に異なります。

 桂枝湯の場合は、背部の上に正気が赴く上衝によって胃気和降が失調した乾嘔です。

   小青龍湯の場合は、心下の痰飲によって胃気の和降が阻まれて起きた乾嘔です。

 おそらく、素体として元々から痰飲が存在していたのでしょう。

 麻黄湯類で肌表から水と熱を発しても、裏水が滞って動かないので、表証が解けきれない状態です。

 その点では、裏水は寒であっても、実証と捉えることが出来ます。

  そして「或いは」でくくられている兼症についてその病理を順次考察します。

①口渇

  口乾ではなく口渇です。

  心下に水気が存在しているにも関わらず、水を飲みたがる状態です。

 そもそも、正気はそんなに弱っていないのですから、裏水(寒水)が陽気を阻んで中焦で熱化したのかもしれません。

 水が陽気を閉じ込めているようなイメージです。

 だからこそ、水が一部であれ痰に化したとも考えられます。

 しかし口渇があっても、そんなにたくさん飲水を欲するような状態ではないと思います。

②下痢

 この場合の下痢は、葛根湯の自下利と病理が似ています。

 小青龍湯の場合、内外が水で溢れていると考えると良いと思います。

 37.太陽病(中)31~32条 葛根湯証 自下利

③ 噎(いつ=むせぶ)

 噎(いつ)は噫(あい)の間違いだとする説がありますが、噫気(あいき=げっぷ)ととらえると、どちらも胃気が和降しない状態だと理解できます。

④小便不利して少腹満

 方剤内に白朮・附子が配されていないので、気虚・陽気不足ではありません。

 方剤構成からは、肺失粛降と中焦に凝り固まった水~痰が水道気機を阻んで小便不利となっていると考えられます。

 また中焦から下焦に下った水が気化されず、滞って小便不利と少腹満が現れている状態です。

 総じて、上焦と中焦の気機不利が下焦にまで及んだ状態です。

 いわば、容器上部の穴が塞がり、容器内の寒天が降りない状態をイメージして頂けたらと思います。

 いわゆる、プッチンプリンのツメが折れない状態ですね。

 次回は、方剤構成を見みてみます。

 

42.太陽病(中)40条 小青龍湯(2)水と痰の混在

【四〇条】

傷寒、表不解、心下有水氣、乾嘔、發熱而、或、或利、或噎、或小便不利、少腹滿、或喘者、小青龍湯主之。方十。

傷寒、表解(げ)せず、心下に水氣有り、乾嘔(かんおう)し、發熱して欬(がい)し、或いは渴は(かっ)し、或いは利(り)し、或いは噎(いっ)し、或いは小便不利し、少腹滿し、或いは喘(ぜん)する者は、小青龍湯之を主る。方十。

 

 方剤構成をざっくり見ると、確かに水を動かす辛温剤である乾姜・細辛が配されていますが、同じく燥湿化痰の辛温剤の半夏もまた配剤されています。

 半夏の量が最も多く配されていることから、おそらく心下が水と痰で塞がり、上焦と中焦の気が通じにくくなっているのだと考えられます。

 さらにまた、方剤中に胸間の停水を治する杏仁が配されていません。

 このことからも、中焦の津液が心下で痰に阻まれ、発汗に十分必要な水が胸間に達していないと考えられます。

 ですからたとえ傷寒証であっても、心下に痰が存在すれば麻黄湯類を用いても十分な発汗が得られず、したがって表証も解けないということになります。

 「心下に水気あり」とは、腹診で確認できる場合があるということで、実際の臨床では振水音が確認できない場合もあります。

 振水音が確認できない場合は、水と痰が結実していると推測することが出来ます。

 生理学的にも、上焦は中焦の気を受けて宣散・粛降します。

 経絡流注的見地からも、手太陰肺経は中焦に起こり、膈を貫いて肺の臓に流注しています。

 これらのことからも、小青龍湯証は心下に水と痰が結んで津液が上焦に昇りにくくなっている状態もあると、考えることができます。

 前回、<金匱要略・痰飲咳嗽病>で解説しましたように、小青龍湯が溢飮と支飲の両方に用いられる理由が見えてくると思います。

 大青龍湯は、表の水が中心の病態。

 小青龍湯は、裏の水と痰が中心の病態で、どちらも表寒で実証であると、まとめることが出来ます。

 これらを踏まえて、次回各症状をみていきます。

〔小青龍湯方〕

麻黄(去節) 芍藥 細辛 乾薑 甘草(炙) 桂枝(各三兩去皮) 五味子(半升) 半夏(半升洗)

右八味、以水一斗、先煮麻黄減二升、去上沫、内諸藥。煮取三升、去滓、温服一升。

、去半夏、加樓根三兩。

若微利、去麻黄、加蕘花、如一子、熬令赤色。

若噎者、去麻黄、加附子一枚、炮。

若小便不利、少腹滿者、去麻黄、加茯苓四兩。

若喘、去麻黄、加杏仁半升、去皮尖。

且蕘花不治利、麻黄主喘、今此語反之、疑非仲景意。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。

麻黄(節を去る) 芍藥 細辛(さいしん) 乾薑 甘草(炙る) 桂枝(各三兩、皮を去る) 五味子(半升) 半夏(半升洗う)

右八味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ。煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。

若し渴すれば、半夏を去り、栝樓根(かろこん)三兩を加う。

若し微利(びり)すれば、麻黄を去り、蕘花(じょうか)、一雞子(いちけいし)の如きを熬(い)りて赤色ならしめ加う。

若し噎(いっ)する者は、麻黄を去り、附子一枚を炮(ほう)じて加える。

若し小便不利し、少腹滿する者は、麻黄を去り、茯苓四兩を加える。

若し喘すれば、麻黄を去り、杏仁半升を皮尖を去りて加える。

且つ蕘花(じょうか)は利を治せず、麻黄は喘を主る、今此の語之に反す。疑うは仲景の意にあらず。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。)

41.太陽病(中)40条 小青龍湯(1)金匱の記述

四〇

傷寒、表不解、心下有水氣、乾嘔、發熱而、或、或利、或噎、或小便不利、少腹滿、或喘者、小青龍湯主之。方十。

傷寒、表解(げ)せず、心下に水氣有り、乾嘔(かんおう)し、發熱して欬(がい)し、或いは渴(かっ)し、或いは利(り)し、或いは噎(いっ)し、或いは小便不利し、少腹滿し、或いは喘(ぜん)する者は、小青龍湯之を主る。方十。

 条文を、簡単に意訳してみます。

 傷寒を患い、麻黄湯で治療したが表証が解けなかった。

 したがって依然として1条と3条の症候がまだ残っている。

 しかも腹診で心下に水気のあることが確認でき、乾嘔(からえずき)、発熱、咳などの症状がある。

 場合によっては、口渇、下痢、 噎(いつ=むせぶ)、小便不利して少腹満、喘ぎなどの兼証が不同に現われる場合は、小青龍湯証である。

 以上が、条文で述べられていることです。

 

 最初に傷寒とあり、表が解けないとあるので、おそらく麻黄湯類を用いるなどして何らかの治療をしたのでしょう。(千金要方では、発汗後表解せずの証としています)

 

 ところが表証が解けない。

 なぜなのか、少し考察してみたいと思います。

 仮に心下に水が存在していても、発汗すれば一旦表証は解けるはずです。

 その後、裏水証が残れば先表後裏の治療原則に法って、後に裏水を治療すれば良いはずです。

 一般的には、表裏同治の方剤とされていますが、意味合いが少し異なると考えています。

 どちらかといえば、裏証に重きを置いた方剤だと考えられるからです。

 先ずは雑病を扱った金匱要略を観てみましょう。

 <金匱要略・痰飲咳嗽病>テキスト P310

 2条

「ー略ー 飲水流行,歸於四肢,當汗出而不汗出,身體疼重,謂之溢飲。欬逆倚息,短氣不得臥,其形如腫,謂之支飲」

 続いて、テキストP313

 23条

「病溢飮、当発其汗、大青龍湯主之、小青龍湯主之」

 36条

「欬逆倚息、不得臥、小青龍湯主之」と雑病にも用いられています。

 ※倚息=ものに寄りかかって息をしている様

  溢飮=皮下の水腫

 <金匱要略・痰飲咳嗽病>の2条を意訳します。

 「ー略ー 飲水が四肢に停留して浮腫を起こし、発汗がみられず身体が疼いて重い状態は溢飮(いついん)である。

 咳嗽して仰向けになることが出来ず、何かに寄りかかりながら呼吸促迫している。身体も浮腫を起こしているかのようである。これを支飲と称する。」

 23条では、共に溢飮とされているので、小青龍湯証も、四肢が疼いたり重かったり、場合によっては浮腫も現れるかもしれません。

 そして36条には、支飲に対する方剤として独り小青龍湯が挙げられています。

 これらのことから、大青龍湯は大瀉法でありながらも、病位としては浅いことが分かります。(肌表の水が目標)

 一方小青龍湯は、瀉法でありながらも裏証支飲に重点を置いた方剤であり、裏水が動かないと表証が解けないことが分かりますね。(裏水が目標)

 八綱で表します。

 大青龍湯・・・表寒水実 裏熱。

 小青龍湯・・・表寒水実 裏寒水。

 と言ったところでしょうか。

 では、なぜ裏水が動かないと表証が解けないのでしょうか。

 色々と思考実験をしてみます。

〔小青龍湯方〕

麻黄(去節) 芍藥 細辛 乾薑 甘草(炙) 桂枝(各三兩去皮) 五味子(半升) 半夏(半升洗)

右八味、以水一斗、先煮麻黄減二升、去上沫、内諸藥。煮取三升、去滓、温服一升。

、去半夏、加樓根三兩。

若微利、去麻黄、加蕘花、如一子、熬令赤色。

若噎者、去麻黄、加附子一枚、炮。

若小便不利、少腹滿者、去麻黄、加茯苓四兩。

若喘、去麻黄、加杏仁半升、去皮尖。

且蕘花不治利、麻黄主喘、今此語反之、疑非仲景意。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。

麻黄(節を去る) 芍藥 細辛(さいしん) 乾薑 甘草(炙る) 桂枝(各三兩、皮を去る) 五味子(半升) 半夏(半升洗う)

右八味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ。煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。

若し渴すれば、半夏を去り、栝樓根(かろこん)三兩を加う。

若し微利(びり)すれば、麻黄を去り、蕘花(じょうか)、一雞子(いちけいし)の如きを熬(い)りて赤色ならしめ加う。

若し噎(いっ)する者は、麻黄を去り、附子一枚を炮(ほう)じて加える。

若し小便不利し、少腹滿する者は、麻黄を去り、茯苓四兩を加える。

若し喘すれば、麻黄を去り、杏仁半升を皮尖を去りて加える。

且つ蕘花(じょうか)は利を治せず、麻黄は喘を主る、今此の語之に反す。疑うは仲景の意にあらず。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。)

40.太陽病 39条 乍有輕時 大青龍湯

三九

傷寒、脉浮緩、身不疼、但重、乍有輕時、無少陰證者、大青龍湯發之。

傷寒、脉浮緩、身疼(いた)まず、但だ重く、乍(たちま)ち輕き時有り、少陰の證無き者は、大青龍湯之を發す。

 

 この条文の矛盾にも、すぐに気が付かれると思います。

 傷寒証であれば、脉浮緊となるはずなのですが浮緩脈です。

 そして身体が疼くのではなく重いと述べられています。

 傷寒麻黄湯証には、「身疼」とあります。

 この違いを解けば、傷寒証で脉浮緩が解けると思います。

 

 麻黄湯証は、水と熱が風寒の邪に阻まれて、激しくうっ滞して起きた症状です。

 なぜなら、桂枝湯証には「身疼」が無いのですから。

 そうすると、「身疼」は、肌表で水と熱が結んでうっ滞して起きる症状であることが分かります。

 本条では、「但重」とありますので、水と熱は肌表にあるのではなく、肌肉にあるかもう少し深いところにあって正気を阻んでいるので、ただ身体が重いと感じるのだと考えることが出来ます。

   そうすると脉浮緩である事が見えてきます。

 そして、深部の水が動いて浅い体表に赴くと、たちまち身体が軽くなるのだと思います。

    すると脉浮緊となるはずです。

 もしこの推理が正しければ、身体が軽くなった代わりに「身疼」が現れるはずですね。

 正しいかどうかは臨床で確認するとして、このような視点で、臨床に臨めば経験値が上がります。

 

 身体がだるい、重いといった場合、少陽病や陽明病でも現れますし、ましてや少陰病では四肢沈重です。

 この身体の重だるさに起伏・変化がある点がそれらとの鑑別要点のひとつになるのだろうと考えています。

 本条のような症候を現す方は、素体として限りなく痰に近い、粘度の高い水を普段から持っていると推測できます。

 もしそうであれば、汗もまたべっとりとした濃い感じの汗が出るはずですね。

 ですから、麻黄6両の大青龍湯で粘度の高い水をわざわざ「発しなさい」と表現しているのだと思います。

 

39.太陽病(中)38条 大青龍湯(2)越婢湯加桂枝杏仁

 まずは大青龍湯の方剤構成を見てみます。

〔大青龍湯方〕

麻黄(六兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 杏仁(四十枚去皮尖) 生薑(三兩切) 大棗(十枚擘) 石膏(如子大碎)

右七味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、取微似汗。汗出多者、温粉粉之。一服汗者、停後服。若復服、汗多亡陽、遂(一作逆)、惡風、煩躁、不得眠也。

麻黄(六兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 杏仁(四十枚、皮尖を去る) 生薑(三兩切る) 大棗(十枚擘く)石膏(雞子大(けいしだい)の如く碎(くだ)く)

右七味、水九升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じて、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、微しく汗に似たるを取る。

汗出ずること多き者は、温粉(おんふん)もて之を粉(はた)く。一服にて汗する者は、後服を停(とど)む。若し復た服すれば、汗多く亡陽(ぼうよう)し、遂に(一作逆)虚し、惡風、煩躁し、眠るを得ざるなり。

 

 最初に大青龍湯の基本方剤である、35条の麻黄湯と比べてみましょう。

麻黄湯  麻黄3両 桂枝2両 炙甘草1両 杏仁70個

大青龍湯 麻黄6両 桂枝2両 炙甘草2両 杏仁40個 生姜3両 大棗10枚 石膏雞子大

 麻黄が倍量の6両ですから、大瀉法だと分かります。

 それに加えて清熱剤の石膏が加えられていますので、胃熱と口渇が存在しているので、水もたくさん飲んでいるはずです。

 <金匱要略・水気病>の越婢湯を見てみましょう。

 麻黄6両 石膏半斤 生姜3両 大棗15枚 甘草2両(生)となっています。

 別の見方をすると、大青龍湯は越婢湯に桂枝と杏仁を加えたものであることが分かります。

 このことから、大青龍湯は水気を意識した方剤であることが分かります。

 ですから、むくみが出ている場合もあるかもしれません。

 少なくとも肩背部の肌は、緊張して分厚く感じ取れます。

 さらに生姜で胃気を和し、大棗で腹部の緊張を緩め、杏仁で胸間の停水をさばく。

 肌表で水と熱と表寒がせめぎあい、内外共にうっしているので煩躁も現れます。

 総じて大青龍湯は、外寒裏熱を、大いに発汗させることで表裏同治させる方剤であることが分かります。

 どのくらい発汗が予測されるかというと、大青龍湯方に温粉もて之を粉く」と大量の汗を取るための方法を記しているのですから、それこそ「水が流離するが如く」汗が大量に出るのでしょう。

 さて、ここでみなさま「青龍」ってどこかで目にしたことがありませんでしょうか。

 四神の内、東に位置する青龍ですね。

 八卦は、震雷f:id:ichinokai-kanazawa:20171201152459j:plainですね。

 上の二陰(寒邪と水邪)に抑えられて、下の一陽が出て行こうとする姿とも言えます。

 まさに肝の昇発のイメージですね。

 鍼だと上の二陰を開いてやれば言い訳です。

 麻黄湯を意識すれは上焦のかかる要穴に瀉法でしょう。

 裏熱に関しては、生姜・杏仁・石膏を意識すれば、例えば内関や列欠などを瀉法といったところでしょうか。

  もちろん、素体の状態によって他の経穴なども選穴の視野に入れることもできますので、病理機序と切診をマッチングさせて、刺鍼前にどのような反応を起こさせたいかを明確に意図することが重要です。

 

三八

太陽中風、脉浮緊、發熱、惡寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之。若脉微弱、汗出惡風者、不可服之。服之則厥逆、筋惕肉、此為逆也。大青龍湯方。

太陽中風、脉浮緊、發熱、惡寒し、身疼痛し、汗出でずして煩躁する者は、大青龍湯之を主る。

若し脉微弱、汗出で惡風する者は、之を服すべからず。之を服すれば則ち厥逆、筋惕(きんてき)肉瞤(にくじゅん)し、此を逆と為すなりなり。大青龍湯方。

38.太陽病(中)38条 大青龍湯(1)

三八

太陽中風、脉浮緊、發熱、惡寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之。

若脉微弱、汗出惡風者、不可服之。服之則厥逆、筋惕肉、此為逆也。大青龍湯方。

太陽中風、脉浮緊、發熱、惡寒し、身疼痛し、汗出でずして煩躁する者は、大青龍湯之を主る。

若し脉微弱、汗出で惡風する者は、之を服すべからず。之を服すれば則ち厥逆、筋惕(きんてき)肉瞤(にくじゅん)し、此を逆と為すなりなり。大青龍湯方。

 【解説】

 条文をそのまま読むと、すぐに矛盾していることに気が付かれると思います。

 太陽の中風証であれば、脉浮緩が正証でした。

 ところが条文には「脉浮緊 不汗出」とあり、また方剤構成をみると傷寒証に用いる麻黄・桂枝の発表剤が入っています。

 ところが、中風証であっても、自汗の有るものと無いものがありました。

 過去ブログ 7.太陽病(上)12条 参照

 

 38条をそのまま素直に読んで矛盾なく理解するにはどうすればいいでしょう。

 素体として、正気は充実しているが普段から中焦・胃熱が盛んな人や気滞が存在していて中風証に罹ったと考えればどうでしょう。

 もしくは、そのような素体の人に中風証と判断して桂枝湯を与えた結果、発表・発汗せずに返って内熱が鬱して現れた症候と推測することも出来ます。

 

 では、これらの事を踏まえて条文を意訳してみます。

 太陽中風証で桂枝湯を服用させたが、脉は浮緊となりさらに発熱し、はっきりとした悪寒が現れた上に身体が疼くようになった。

 しかも発汗は見られず、煩躁するようになった者は、大青龍湯証である。

 もし桂枝湯を服用し、脉が微弱で発汗があり、悪風するようであれば大青龍湯を服用させてはいけない。

 もし大青龍湯を与えたなら、水が流離するかのような大量の発汗がみられ、手足が冷えあがって厥冷を起こし、筋肉がぴくぴくと痙攣をおこすようになる。

 これは逆治である。

 次回、ここまでのことを踏まえて、方剤構成からさらに病態を推測してみます。

〔大青龍湯方〕

麻黄(六兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 杏仁(四十枚去皮尖) 生薑(三兩切) 大棗(十枚擘) 石膏(如子大碎)

右七味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、取微似汗。汗出多者、温粉粉之。一服汗者、停後服。若復服、汗多亡陽、遂(一作逆)、惡風、煩躁、不得眠也。

麻黄(六兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 杏仁(四十枚、皮尖を去る) 生薑(三兩切る) 大棗(十枚擘く)石膏(雞子大(けいしだい)の如く碎(くだ)く)

右七味、水九升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じて、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、微しく汗に似たるを取る。

汗出ずること多き者は、温粉(おんふん)もて之を粉(はた)く。一服にて汗する者は、後服を停(とど)む。若し復た服すれば、汗多く亡陽(ぼうよう)し、遂に(一作逆)虚し、惡風、煩躁し、眠るを得ざるなり。

37.太陽病(中) 37条 太陽病、十日以去

三七

太陽病、十日以去、脉浮細而嗜臥者、外已解也。設胸滿脇痛者、與小柴胡湯。脉但浮者、與麻黄湯。七(用前第五方)。

太陽病、十日を以て去り、脉浮細にして嗜臥(しが)する者は、外已(すで)に解(げ)するなり。設(も)し胸滿脇痛する者は、小柴胡湯を與う。脉但(た)だ浮の者は、麻黄湯を與う。

 この条文は、十日を以て去り」を文頭に、以下の三段階に分けてつなげることが出来ます。

 「十日を以て去り」

 ①脉浮細にして̪嗜臥する者で、表証が解けたもの。

 ②胸脇苦満で小柴胡湯を与えるもの。

 ③ただ脈が浮である者で、麻黄湯によろしい状態。

 まず太陽病になって10日以上経過しているのですから、そのまま治癒に向かう場合や他経に伝変している場合など、様々なことが想定できます。

 ①は表証は解けているので、そのまま治癒に向かうと思われます。ただ脉浮細で嗜臥(横に寝たがる)する状態は、少陰病を思い起こさせます。

 少陰病の綱領は、「脉微細、但欲寝也」です。

 少陰病ではなくても、この10日間で相当正気が傷られただろうと想像できますので、これからさらに治療が必要な場合と、適切な養生で治癒に向かう場合とが想定できます。

 ②は、10日くらい経過して、胸脇苦満が現れたのなら小柴胡湯証であると判断しなさいということです。

 胸脇苦満とは、胸と脇の部位で正邪がせめぎあって膨満・緊張している状態ですね。

 さらに季肋部だけではなく、胸全体から脇にかけての広い部分に緊張が現れていることを胸脇苦満と表現しています。

 小柴胡湯証の症候は、96条で再度おこないます。

 方意だけ少し述べます。

 大棗・甘草で胸脇の緊張を緩めます。

 柴胡で膈を開きます。

 生姜・半夏で水と痰を動かして胃気を和します。

 黄芩で心下を清熱利湿し、人参で心下に水を集めます。

 人によっては、別の理解・見方をされるかもしれませんね。

 

 小柴胡湯を服用した後の反応は、素体の状態によってバリエーションがあります。

 ですからどのような経過をたどって治癒するのか、あらかじめ予測することが出来ますし、予測しておく必要があります。

 予測する手がかりは、96条の条文中に多用されている「或いは~」という表現にあります。

 少し考察して下さればと思います。 

 その際に、以下の事を意識してみてください。

 小柴胡湯で膈(少陽枢機)を開いて通じさせることで、上下の流通が円滑になります。

 そのことで、邪がどのように動いて、どこから排出されるかです。

 

 小柴胡湯の方剤構成、ややこしいです。

 ちなみに鍼灸だとこの病理を理解していると、おおよそ1本もしくは2本で済みます。

 

 ③は、10日以上経過しても、まだ麻黄湯証の場合があることをのべたものです。

 10日以上ということは、慢性的な経過をたどっているので、35条の麻黄湯証ほどはっきりとした症候は現れていないかもしれません。

 だからこそ、麻黄湯証全体の病理と個々の症状の病理との関係をしっかりと理解しておく必要があります。

 〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄 人參 甘草(炙) 生薑(各三兩切) 大棗(十二枚擘) 半夏(半升洗)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。

柴胡(半斤) 黄芩 人參 甘草(炙る) 生薑(各三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 半夏(半升洗う)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再び煎りて三升を取り、一升を温服し、

日に三服す。