ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

198.厥陰病 374条 讝語・燥屎 宜小承気湯

【三七四条】

下利讝語者、有燥屎也、宜小承氣湯。方十五。

下利して讝語する者は、燥屎(そうし)有るなり、小承氣湯に宜し。方十五。

 下利をして讝語するのですから、この下痢も熱痢の範疇に入りますね。

 208条に「若腹大満して通ぜざる者は、小承気湯を与えるべし」とありますが、今回は下利をしています。

 陽明病の正証は、以下で復習して頂けたらと思います。

 131.陽明病 208条 大承気湯と小承気湯

 しかも大承気湯と小承気湯の鑑別のひとつに、大承気湯には燥屎が有り、小承気湯には無いはずでした。

 ですので、この条文そのものに錯簡なり誤りがあるように思われます。

 小承気湯を与えるべき人は、讝語して大便通ぜざる者。

 大承気湯は便秘して燥屎有りが一般的ですが、協熱下利や熱結傍流の下利がみられることもありました。

 ですので宜小承気湯を改め、宜大承気湯がしっくりとくるように思うのですが、どうでしょう。

 

 

197.厥陰病 373条 欲飲水 白頭翁湯

【三七三条】

下利欲飲水者、以有熱故也、白頭翁湯主之。十四(用前第十二方)。

下利し水を飲まんと欲する者は、熱有るを以ての故なり。白頭翁湯を之を主る。十四(前の第十二方を用う)。

 この場合の下利は、熱痢でした。そして口渇が現れたのですから、やはり熱の存在を示していると思います。

 しかしながら、少陰病・四逆湯証で、あまりに下利がひどくて津液を失ってしまった場合にも欲飲水が現れます。

 白頭翁湯証は熱痢ですが、あまりに下利が続くと津液不足で口渇する側面も現れるのかもしれません。

 このような場合、先ず小便不利という状態が現れるだろうと推測されます。

 白頭翁湯に関しては、すでに371条に記していますので、振り返りをして頂けたらと思います。

 195.厥陰病 370・371条 白頭翁湯

 

196.厥陰病 327条 先裏後表 桂枝湯 四逆湯

【三七二条】

下利腹脹滿、身體疼痛者、先温其裏、乃攻其表。温裏宜四逆湯、攻表宜桂枝湯。十三(四逆湯用前第五方)。

下利し、腹脹滿し、身體(しんたい)疼痛する者は、先ず其の裏を温め、乃ち其の表を攻む。裏を温むるは四逆湯に宜しく、表を攻むるは桂枝湯に宜し。十三(四逆湯は前の第五方を用う)。

 元々は表証があったのでしょう。

 その後、下利が現れお腹が脹滿するようになって、しかも身体疼痛するようになってきたのですね。

 陽明病などですと腹満でしかも鞕満。

 脹滿となりますと陰証・虚証です。

 ここは、あまり間違わないだろうと思います。

 脹滿は、なんとなくお腹の輪郭がぼんやりとした感じであまり力を感じません。

 脈も微細で四肢の厥冷なども現れているのでしょう。

 この場合は、まず裏を救うべく四逆湯類で水を排いて陽気の回復を図り、脈が浮緩でそこそこ有力となってきたら、桂枝湯で解肌しなさいと言う事ですね。

 先表後裏の原則の逆です。

 

 

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四逆湯

 

 

 

195.厥陰病 370・371条 白頭翁湯

【三七〇条】

下利清穀、裏寒外熱、汗出而厥者、通脉四逆湯主之。方十一。

下利清穀、裏寒外熱し、汗出で厥する者は、通脉四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)之を主る。方十一。

 通脈四逆湯に関しては、すでに317条で詳しく解説していますので、ここでは省略いたします。

180.少陰病 316・317条 真武湯・通脈四逆湯

 

三七一条】

熱利下重者、白頭翁湯主之。方十二。

熱利(ねつり)して下重(げじゅう)する者は、白頭翁湯(はくとうおうとう)之を主る。方十二。

 冒頭にいきなり熱痢と記されています。<中国漢方医語辞典>では熱瀉で記載がありますのでそのまま記します。

 「熱迫大腸(熱が大腸に迫る)によって引き起こされる❝火瀉❞ともいう。

 主要な症状は、粥(かゆ)のような黄と白のまざったものを下す、あるいは粘り気を帯び悪臭を放つ、腸がゴロゴロ鳴り腹が痛み、ひとしきり痛むとひとしきり下し、下した後には後重感がある。

 肛門は灼(やけ)るように熱く、小便は短くて赤い、口は渇き、舌苔は黄色、脈象は数などである。」

 下利には軽重バリエーションがありますので、熱の性質を考慮して下痢の状態を想像できると、日常の臨床で遭遇する単純な下利も、寒熱・虚実の鑑別が容易になります。

 熱ですから、便臭はきつく感じるでしょうし、肛門も熱く感じます。

 また下した後に気が抜けたようになるのは虚、すっきりとするのは実です。

 ここは、生体の正気の状態によってあいまいなグレーゾーンもありますので、その場合は他の証候と参伍して決定します。

 さて、白頭翁湯の下利ですね。

 例によって方剤をみてみます。

白頭翁 気味 苦寒
中薬学:清熱解毒・涼血止痢
薬徴:熱痢下重を主治するなり。若し熱痢、渇して心悸すれば、則ち白頭翁湯を用ふるなり。
新古方薬嚢:味苦温熱性の下利を治す。熱ありて腹しぶる者、腹脹る者、或は便血する者等を治す。本薬には解熱収斂性あるものの如し。

秦皮 気味 苦渋寒
中薬学:清熱燥湿 渋腸止痢 清肝明目
本草綱目:秦皮味苦微寒、風寒濕痺洗洗として寒気するを主り熱と目中の青翳白膜を除く、久服すれば頭白からず身を軽くす。
新古方薬嚢:微寒は熱を冷やし、苦は充血を去る。故に白頭翁に入りて諸薬に合して熱利下重を治す。

黄檗 気味 苦寒
中薬学:清熱燥湿 清熱瀉火 清熱解毒
新古方薬嚢:血熱を去り、下痢を止め、腹痛を治す。又黄疸を治す。何れも熱を除くが本薬の主る所なり。金匱要略にては黄蘗を自死せる六畜の肉を喰らひ其の毒に中りたる者を治するに用ゆ。

 黄連 気味 苦寒 燥湿清熱

薬徴:心中煩悸を主るなり。

 白頭翁をみると、血便とありますので営分や血分の深い熱を清する働きがあるように思えます。

 また黄蘗は、腸内の糞便の腐敗が進んだ湿熱を清する働きとも考えられます。

 意外なのは心熱を清する黄連が配されているので、熱痢下重に心中煩悸の症状があってもおかしくないですね。

 そして今ひとつはっきりと分からないのが秦皮です。

 どうも目・白髪など、上焦の症状が記されていますので、黄連とペアとも考えられます。

 <類聚方広義>をみますと、「熱利下重して心悸する者を治す」とあります。

 やはり、心悸症状を伴っているのですね。

 そしてその傍注に「貉丘岑(みなかくきゅう)先生曰く、かつて甲斐に在りし時、痢疾流行す。患いに嬰(ふれ)ざらぬ者無し。

 その症、大便毎に肛門灼熱すること火の如し。この方を用いて多く効有り。」

 「眼目鬱熱を治す。赤く腫れ陣痛風にて涙止まらざる者、また洗蒸剤を為すもまた効有り」と記されています。

 これらから、白頭翁湯の熱痢は、かなり熱の厳しい下利で、その熱は心神にまで影響していることが分かります。

 また白頭翁湯を外用剤として用いて効を取っているのも、発想としてすばらしいものを感じます。

 湿熱タイプの皮膚炎などに、黄連解毒湯などを外用剤にしてみたら・八味地黄丸を命門や神厥・関元に貼り付ければどうだろうという発想にもつながりますね。

 面白いですね。

 それはそうとして、白頭翁湯がなぜ厥陰病に入れられているのか・・・謎です。

 

〔白頭翁湯方〕

白頭翁(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(三兩)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服一升。不愈、更服一升。

白頭翁(はくとうおう)(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(しんぴ)(三兩)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。愈えざれば、更に一升を服す。

 

194.厥陰病 359条 乾姜黄連黄芩人参湯

【三五九条】

傷寒本自寒下、醫復吐下之、寒格、更逆吐下。若食入口即吐、乾薑黄芩黄連人參湯主之。方十。

傷寒本(もと)自と寒下(かんげ)するに、醫復た之を吐下して、寒格(かんかく)し、更に逆して吐下す。若し食口に入らば即吐するは、乾薑黄芩黄連人參湯(かんきょうおうごんおうれんにんじんとう)之を主る。方十。

  傷寒に罹ってから、どのような経過をたどったのかは不明ですが、とにかく寒性下利をするようになったのですね。

 寒痢ですので、希薄であまり便臭がしない下利です。

 それをどういう訳か医師が吐き下しをかけたところ、寒格となったところにさらに逆治を加えたのですね。

 ここは、医師がどこを見て吐下の法を用いたのかは、不明です。

 

 寒格とは、陰陽が交流しない状態の事でした。

 そうしたところ、食べ物を口にしただけで吐くようになってしまった場合は、乾姜黄芩黄連人参湯証と言う事です。

 寒格ということですので、どこで上下・寒熱が交わらないのかが、配剤から見えてきます。

 人参は心下痞鞕、黄芩は心下痞を主冶するのですから、心下~中焦で陰陽の交流が阻まれていることが分かります。

 黄連は、心中煩悸を治すのですから、胸部に鬱熱が存在しています。

 そして乾姜は、結滞水毒を主冶するのですから、中焦に水邪が存在していることが分かります。

 これらから、気逆によって水邪が心下を塞ぎ、上実下虚・上熱下寒となってロックがかかったかのようになっていることが見えてきます。

 黄連・黄芩のペアは、149条の半夏瀉心湯や155条の附子瀉心湯などが思い浮かびますね。

 またこの条文中の寒痢は、下焦に水があって陽気を抑え込んだ附子の寒痢とは病位が異なります。

 ですから、同じ寒痢であっても、厥陰病の寒痢より少陰病の寒痢の方がより重篤ですので、陰証の病位の順序を、太陰→厥陰→少陰とする根拠とすることが出来ると考えています。

 360条から369条までは、原文と読み下し文のみ記載しています。

 

〔乾薑黄芩黄連人參湯方〕

乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)

右四味、以水六升、煮取二升、去滓、分温再服。

乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)

右四味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三六〇条】

下利有微熱而渴、脉弱者、今自愈。

下利し微熱(びねつ)有りて渴し、脉弱の者は、今自(おのずか)ら愈ゆ。

 

【三六一条】

下利脉數、有微熱汗出、今自愈。設復緊(一云設脉浮復緊)、為未解。

下利し、脉數(さく)、微熱有りて汗出ずるは、今自ら愈ゆ。設(も)し復た緊なれば、未だ解せずと為(な)す。

 

【三六二条】

下利、手足厥冷、無脉者、灸之不温、若脉不還、反微喘者、死。少陰負趺陽者、為順也。

下利、手足厥冷し、脉無き者は、之に灸す。温まらず、若し脉還(かえ)らず、反って微喘(びぜん)する者は、死す。少陰、趺陽(ふよう)より負の者は、順と為(な)すなり。

 

【三六三条】

下利、寸脉反浮數、尺中自濇者、必清膿血。

下利し、寸脉反って浮數(さく)。尺中自ら濇(しょく)の者は、必ず膿血(のうけつ)を清す。

 

【三六四条】

下利清穀、不可攻表。汗出必脹滿。

下利清穀(せいこく)するは、表を攻むべからず。汗出ずれば、必ず脹滿す。

 

【三六五条】

下利、脉沈弦者、下重也。脉大者、為未止。脉微弱數者、為欲自止、雖發熱不死。

下利し、脉沈弦の者は、下重(げじゅう)するなり。脉大の者は、未(いま)だ止まずと為す。脉微弱數の者は、自ら止まんと欲すと為す。發熱すると雖も死せず。

 

【三六六条】

下利脉沈而遲、其人面少赤、身有微熱、下利清穀者、必鬱冒汗出而解、病人必微厥、所以然者、其面戴陽、下虛故也。

下利し、脉沈にして遲、其の人面少しく赤く、身に微熱有り。下利清穀する者は、必ず鬱冒(うつぼう)し汗出でて解す。病人必ず微厥(びけつ)す。然る所以(ゆえん)の者は、其の面戴陽(たいよう)して、下虛するが故なり。

 

【三六七条】

下利脉數而渴者、今自愈。設不差、必清膿血、以有熱故也。

下利し、脉數にして渴する者は、今自ら愈ゆ。設(も)し差(い)えざれば、必ず膿血を清す。熱有るを以ての故なり。

 

【三六八条】

下利後、脉絶、手足厥冷、晬時脉還、手足温者生。脉不還者死。

下利の後、脉絶(ぜつ)し、手足厥冷するも、晬時(さいじ)にして脉還(かえ)り、手足温なる者は生く。脉還らざる者は死す。

 

【三六九条】

傷寒下利日十餘行、脉反實者、死。

傷寒、下利すること日に十餘行(こう)、脉反って實する者は死す。

193.厥陰病 356条 茯苓甘草湯

【三五六条】

傷寒厥而心下悸、宜先治水、當服茯苓甘草湯、却治其厥、不爾、水漬入胃、必作利也。茯苓甘草湯。方八。

傷寒厥して心下悸するは、宜しく先ず水を治すべし。當に茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう)を服すべし。却って其の厥を治す。爾(しか)らざれば、水漬(すいし)胃に入り、必ず利を作(な)すなり。茯苓甘草湯。方八。

  茯苓甘草湯は、73条で五苓散証と口渇の有無で鑑別することがすでに述べられています。

 共通点は、小便不利ですので、356条も小便不利があると考えるべきでしょう。

61.太陽病(中)71~75条 五苓散 茯苓甘草湯

 さて、厥は気が逆流、もしくは上逆して四肢が冷たくなったり、重ければ人事不詳になります。

 心下が悸しているのですから、気が上逆して心竅である心下に何か詰まってしまっていることが分かります。

 心竅が、塞がってしまったからこそ、厥証が現れたのですね。

 その心下に何が塞がっているのかは、方剤の中身をみると茯苓・生姜が配されていますので、水邪だとすぐに分かりますね。

 そして桂枝で上衝・上逆を治して水邪を小便利に持って行くのですね。

 そして利水した後、まだ四肢厥冷が残るようであれば、四肢厥冷を目標に治療を施すべきであり、そうしなければ胃が水浸しとなるので必ず下痢をするようになると述べています。

 357・358条は、原文と読み下し文のみの記載です。 

〔茯苓甘草湯方〕

茯苓(二兩) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切) 桂枝(二兩去皮)

右四味、以水四升、煮取二升、去滓、分温三服。

茯苓(二兩) 甘草(一兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 桂枝(二兩、皮を去る)

右四味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【三五七条】

傷寒六七日、大下後、寸脉沈而遲、手足厥逆、下部脉不至、喉咽不利、唾膿血、泄利不止者、為難治。麻黄升麻湯主之。方九。

傷寒六、七日、大いに下したる後、寸脉沈にして遲、手足厥逆し、下部の脉至らず、喉咽(こういん)利せず、膿血を唾(だ)し、泄利(せつり)止まざる者は、治ち難しと為(な)す。麻黄升麻湯(まおうしょうまとう)之を主る。方九。

 

〔麻黄升麻湯方〕

麻黄(二兩半去節) 升麻(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(十八銖一作菖蒲) 芍藥(六銖) 天門冬(六銖去心) 桂枝(六銖去皮) 茯苓(六銖) 甘草(六銖炙) 石膏(六銖碎綿裹) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)

右十四味、以水一斗、先煮麻黄一兩沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、分温三服。相去如炊三斗米頃、令盡、汗出愈。

麻黄(二兩半、節を去る) 升麻(しょうま)(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(ちも)(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(いずい)(十八銖、一に菖蒲(しょうぶ)と作(な)す) 芍藥(六銖) 天門冬(てんもんどう)(六銖、心を去る) 桂枝(六銖、皮を去る)

茯苓(六銖) 甘草(六銖、炙る) 石膏(六銖、碎き、綿もて裹(つつ)む) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)

右十四味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て一兩沸し、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。相い去ること三斗米を炊く頃の如くにして、盡(つく)せしむ。汗出でて愈ゆ。

 

【三五八条】

傷寒四五日、腹中痛、若轉氣下趣少腹者、此欲自利也。

傷寒四、五日、腹中痛み、若し轉氣(てんき)下り少腹に趣(おもむ)く者は、此れ自利せんと欲するなり。

192.厥陰病 353条~355条 四逆湯 瓜蒂散

【三五三条】

大汗出、熱不去、内拘急、四肢疼、又下利厥逆而惡寒者、四逆湯主之。方五。

大いに汗出で、熱去さらず、内拘急(こうきゅう)し、四肢疼(いた)み、又下利厥逆し惡寒する者は、四逆湯之を主る。方五。

 自ずと大いに汗がでたのか、発汗させたのかは不明です。

 それにもかかわらず熱が下がらない。

 内拘急とは、腹部の緊張でしかも四肢が疼いている。

 もしくは下痢をして厥冷して悪寒する場合もあるのは、四逆湯証であるというとでしょう。 

 

【三五四条】

大汗、若大下利而厥冷者、四逆湯主之。六(用前第五方)。

大いに汗し、若しくは大いに下利して厥冷する者は、四逆湯之を主る。六(前の第五方を用う)。

  同じように大いに発汗した後、場合によっては陽明だったのでしょうか、大いに下したところ四肢が厥冷するようになった。

 これは四逆湯証である、ということですね。

 

 この353条と354条が、なぜ厥陰病篇に記載されているのか、もう一つ判然としません。

【三五五条】

病人手足厥冷、脉乍緊者、邪結在胸中、心下滿而煩、飢不能食者、病在胸中、當須吐之、宜瓜蔕散。方七。

病人手足厥冷し、脉乍(たちま)ち緊の者は、邪結んで胸中に在り、心下滿して煩し、飢(う)ゆれども食すること能わざる者は、病胸中に在り。當に須(すべから)く之を吐すべし。瓜蔕散(かていさん)宜。方七。

 瓜蒂散証にも四肢厥冷が現れるのですね。おそらく、心下に熱痰が塞がったのだろうとすぐに気が付くと思います。

 四肢の厥冷とほぼ同時に脈も緊となるのでしょう。

 邪が胸中に結ぶとありますが、心下満とありますので、ここが邪実の本体が存在しているところですね。

 胃中が空っぽであっても、胃口で熱鍛が塞がっていれば、お腹は空いていても食べることが出来ないのも当然ですね。

 瓜蒂散証については、すでに述べていますので省略いたします。

 今回は、これまで。

 119.太陽病(下)166条 瓜蒂散

 

191.厥陰病 352条 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 内有久寒

【三五二条】

若其人内有久寒者、宜當歸四逆加呉茱萸生薑湯。方四。

若し其の人内(うち)に久寒有る者は、當歸四逆加呉茱萸生薑湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)に宜し。方四。

 352条は、前の351条を引き継いだ加減法です。

 非常に長い方剤名ですが、嘔を治す生姜を加えているので、一旦桂枝湯にして、さらに当帰、木通、細辛を加えた上に、さらに気味苦辛熱、嘔して胸満するを主冶する呉茱萸を足したものですね。

 そうすると方剤の意図がはっきりとしてくると思います。

 内に久寒があるとのことですので、素体としてすでに中焦に冷えと水が結んでいいることが分かります。

 脈も中焦で水と冷えが結ばれていることにより、細で絶えんと欲しており、四肢厥寒の他に、頭項項痛、悪寒、頭痛、胸満、嘔吐、腹痛など、気の衝逆症状があってもおかしくない症候が見えてきます。

 四逆湯と当帰四逆加呉茱萸生姜湯を比較すると、四逆湯は生附子が用いられているので、下焦で水が陽気を厳しく阻んでいるのに対して、当帰四逆加生姜湯は、水が中焦で留まり、陽気が上焦に昇らないとも考えることが出来ます。

 相対的に前者が虚、後者が実と診ることもできます。

 逆に言えば、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、中焦の水を散らしながら陽気を一旦上焦に持って行き、全身の気をめぐらそうとする方剤とも言えます。

 大塚敬節は、いわゆる「疝」と称される下腹部痛、足厥陰肝経の証候である生殖器・泌尿器方面の障害に用いて多数著効を得たと述べています。

 鍼を用いるのなら、どうしますでしょう。

 筆者でしたら、中焦の水は下に下ろし、陽気は上に持って行きます。

 目付処は、やはり中焦から心下でしょうか。

 補瀉は、その時々で加減するので一概に言えませんが、上記を参考に選穴・補瀉すれば良いのではないかと考えます。

〔當歸四逆加呉茱萸生薑湯方〕

當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 桂枝(三兩去皮) 細辛(三兩) 生薑(半斤切) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚擘)

右九味、以水六升、清酒六升和、煮取五升、去滓、温分五服(一方水酒各四升)。

當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 細辛(三兩) 生薑(半斤、切る) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚、擘く)

右九味、水六升を以て、清酒六升を以て和し、煮て五升を取り、滓を去り、温め分かち五服す(一方に、水酒各々四升とす)。

190.厥陰病 351条 当帰四逆湯 手足厥

【三五一条】

手足厥寒、脉細欲絶者、當歸四逆湯主之。方三。

手足厥寒し、脉細にして絶せんと欲する者は、當歸四逆湯(とうきしぎゃくとう)之を主る。方三。

 条文の冒頭に手足厥寒とあります。

 これまで出て来た厥逆とか厥冷とは表現が異なっています。

 また方剤名は当帰四逆湯ですから、四逆=手足が冷たいことを表現しているのですが、厥逆・厥冷と厥寒とはどう違うのかは、配剤を吟味すると見えてきます。

 「脉細にして絶えんと欲す」は、317条 通脈四逆湯の「手足厥逆、脉微にして絶せんと欲す」に類似しています。

 180.少陰病 316・317条 真武湯・通脈四逆湯

 通脈四逆湯の配剤は、甘草2両 附子1枚 乾姜3両ですので、水が溢れて陽気存亡の危機にあることが分かります。

 ところが当帰四逆湯を見ると、附子・乾姜・桂皮などが配されていませんので、陽気の存亡の危機とまでは言えません。

 ですから当帰四逆湯は脉細にして絶えんと欲してはいても、他覚的にはそんなに手足の冷えが上がって来ることはないだろうと推測できます。

 ですのでこの厥寒は、患者自身が自覚的に冷えを訴えても、術者が実際に触れるとそんなに冷えを感じないだろうとも考えられます。

 臨床的にも、患者が強く冷えを訴えている割に、触れてみるとそんなに冷えを感じない場合が多々あります。

 配剤をみてみましょう。

 通草は、現代中薬学では、木通に相当します。

当帰 気味 甘辛苦 温
中薬学:補血調経 活血行気・止痛 潤腸通便 (血中の気薬)
新古方薬嚢:味甘温 中を緩め外の寒を退け気血の行りをよくすることを主る。故に手足を温め、腹痛を治し、内を調え血を和し胎を安んず、之れ当帰の好んで婦人血の道の諸病、諸の冷え込み等に用ひらるる所以なるべし。

木通 気味 苦寒
中薬学:降火利水、宣通血脈
新古方薬嚢:気味辛平気を通じ血を循らし、よく手足を煖む。故に当帰四逆湯に配伍せられ、手足の厥寒を治するに用ひらる。

 ざっと当帰四逆湯の配剤をみると、桂枝湯に似ていませんでしょうか。

 桂枝湯・・・・・桂枝、芍薬、炙甘草、大棗、生姜、ですね。

 当帰四逆湯・・・桂枝、芍薬、炙甘草、大棗    ここまでは桂枝湯と同じです。

 そして桂枝湯から生姜を外しています。

 加えて、当帰、細辛、木通です。

 桂枝湯の解説は、もうよろしいですよね。

 細辛は、気味辛温、薬徴では「細辛主治、宿飲停水也」とあります。木通と一緒になって良く水を行らすのだと思います。

 そして今ひとつはっきりとしない当帰ですが、中薬学では「血中の気薬」と称され、婦人の血の道の諸症に好んで用いられていることから、補血の作用と利気の両面があるように思えます。

 このように考えますと、どちらかと言えば血虚傾向でしかも停水もあり、血に陽気を乗せて運ぶことが出来なくて脉細にして絶えんと欲し、手足厥寒する状態と理解することが出来るのではないでしょうか。

 

〔當歸四逆湯方〕

當歸(三兩) 桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 大棗(二十五枚擘一法十二枚)

右七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

當歸(とうき)(三兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 大棗(二十五枚、擘く、一法に十二枚とす)

右七味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

189.厥陰病 350条 白虎湯

【三五〇条】

傷寒脉滑而厥者、裏有熱、白虎湯主之。方二。

傷寒、脉滑にして厥する者は、裏に熱有り、白虎湯之を主る。方二。

 傷寒で裏熱で白虎湯証ですが、厥証には寒厥と熱厥があるのですが、この場合は熱厥ですね。

 厥陰病で現れる熱厥証。

 これ、見破るにはなかなかの見識と度量が必要だと思います。

 四逆湯類でも、四肢厥冷と発熱症状があります。

 判断、鑑別要点はどこに求めればいいのでしょうね。

 このあたりの病理は、少し複雑だと思います。

 四肢厥冷していて、脈が滑で有力であれば、気滞によって裏に熱が鬱していることも考えられます。

 この場合、脈は浮き切らないはずですよね。

 裏に熱ありということですので、頭痛や口渇、ひどければ煩躁などもあるかもしれませんし承気湯類が適応する場合もあるでしょう。。

 口渇などがなければ、四逆散証も考えられます。

 四肢厥冷と一口で言っても、寒厥と熱厥がありますし、この後登場しますが、血虚でも四肢厥冷は生じます。

 ですので本条の場合は、厥冷症状があっても裏に熱があること。

 真熱仮寒であることを喚起していると読むことが出来ると考えています。

 

 

188.厥陰病 338条 鳥梅丸

【三三八条】

傷寒脉微而厥、至七八日膚冷、其人躁、無暫安時者、此為藏厥、非蚘厥也。

蚘厥者、其人當吐蚘、令病者靜、而復時煩者、此為藏寒。蚘上入其膈、故煩、須臾復止。

得食而嘔、又煩者、蚘聞食臭出、其人常自吐蚘、蚘厥者、烏梅丸主之。又主久利。方一。

傷寒脉微にして厥し、七、八日に至りて膚(はだ)冷え、其の人躁(そう)にして、暫くも安き時無き者は、此れを藏厥(ぞうけつ)と為す。蚘厥(かいけつ)に非ざるなり。

蚘厥なる者は、其の人當(まさ)に蚘(かい)を吐すべし。病者をして靜かにして復た時に煩せしむる者は、此れを藏寒(ぞうかん)と為(な)す。蚘上りて其の膈に入るが故に煩し、須臾(しゅゆ)にして復た止(や)む。

食を得てして嘔し、又煩する者は、蚘食臭(しょくしゅう)を聞きて出ず。其の人常に自ら蚘を吐す。蚘厥なる者は、烏梅丸(うばいがん)之を主る。又、久利(きゅうり)を主る。方一。

  条文は、臓厥と蚘厥の二証について述べられています。

 まず、傷寒に罹って脈が微となり、手足が厥冷して7・8日経過すると体幹部の皮膚まで冷えが現れ、手足を動かして苦しむ躁も現れて少しの間も安らかにしておれない程である。

 これは臓厥であって蚘厥ではないと記されています。

 四肢厥冷で煩躁状態であれば、四逆湯類で対処できると思いますが、体幹部にまで冷えが及ぶとなると、かなり危急で難治の証だと思います。

 

 次に蚘厥というのは、蚘を吐くものである。

 病人を静かにさせ、時に再び煩が現れるのは、臓が冷えたために蚘が上って膈に入るためで、しばらくすると再び止んで静かになるものである。

 食事をして吐き気がしたり煩が現れるのは、蚘が食臭を聞きつけたからである。

 蚘厥の者は、常に自ずから蚘を吐くものである。このような蚘厥の場合、鳥梅丸がこれを主治するのであると記されています。

 

 臓厥の場合は「躁」が現れ、蚘厥の場合は「煩」が現れるという違いははっきりとしています。

 一般的には、蚘厥の場合は、蚘が陽気を阻むために煩が現れ、臓厥の場合は、陽気が尽きようとしているので躁が現れるとされています。

 躁は他覚的に確認できますが、煩は自覚的に本人にしか分からない感覚です。

 さて、鳥梅丸の中身を検討してみます。

 今回新たに登場した方剤は、烏梅と蜀椒、当帰です。

烏梅 気味 酸渋平
中薬学:渋腸止瀉、和胃安蛔、固崩止血、生津止渇
新古方薬嚢:味酸平、停滞を収め内外を通ず、故に膚の冷え手足の寒を治す。

蜀椒 気味 辛熱 小毒
中薬学:散寒止痛・燥湿、解毒駆虫、
新古方薬嚢:味辛温、腹中を温め腹痛を治す。又腹中の虫を殺す力ありと言ふ。

当帰 気味 甘辛苦 温
中薬学:補血調経 活血行気・止痛 潤腸通便 (血中の気薬)
新古方薬嚢:味甘温 中を緩め外の寒を退け気血の行りをよくすることを主る。故に手足を温め、腹痛を治し、内を調え血を和し胎を安んず、之れ当帰の好んで婦人血の道の諸病、諸の冷え込み等に用ひらるる所以なるべし。

 烏梅は、下利を止め、蜀椒は駆虫する薬能があるそうです。

 細辛、乾姜、炮附子は、共に辛温で水を動かす方剤です。

 黄連は心中煩悸を治し、黄蘗は、血熱を清して下痢を止める。

 人参は、心下に水を集めて心下痞鞕を治す。

 当帰は気血を和して、手足を温め、桂枝は上衝を治す。

 

 以上ざっくりと見ますと、腹中で水が陽気を阻んでおり、加えて鬱した気が上衝して心下が痞鞕し、嘔吐や煩が現れている姿が浮かんできませんでしょうか。

 大塚敬節は鳥梅丸を、蛔虫による腹痛、嘔吐、下痢を治すだけでなく、蛔虫と関係のなく久しく下利して止まない者や、妊娠悪阻などに用いています。

 蛔虫による病証、現代ではもう見ることは無いでしょうね。

 339条から349条は、原文と読み下し文のみの記載です。

〔烏梅丸方〕

烏梅(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩炮去皮) 蜀椒(四兩出汗) 桂枝(去皮六兩) 人參(六兩) 黄檗(六兩)

右十味、異擣篩、合治之。以苦酒漬烏梅一宿、去核、蒸之五斗米下、飯熟擣成泥、和藥令相得。内臼中、與蜜杵二千下、丸如梧桐子大。先食飲服十丸、日三服、稍加至二十丸。禁生冷、滑物、臭食等。

 

烏梅(うばい)(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩、炮じて皮を去る) 蜀椒(しょくしょう)(四兩、汗を出す) 桂枝(皮を去る、六兩) 人參(六兩) 

黄檗(おうばく)(六兩)

右十味、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合して之を治む。苦酒(くしゅ)を以て烏梅を漬けること一宿(いっしゅく)、核を去り、之を五斗米の下(もと)に蒸し、飯熟(いじゅく)せば擣きて泥(でい)と成し、

藥に和して相(あ)い得せしむ。臼中(きゅうちゅう)に内(い)れ、蜜とともに杵(つ)くこと二千下(げ)、丸ずること梧桐子大(ごどうしだい)の如くす。食に先だちて十丸を飲服し、日に三服す。

稍(やや)加えて二十丸に至る。生冷(せいれい)、滑物(かつぶつ)、臭食(しゅうしょく)等を禁ず。

 

【三三九条】

傷寒熱少微厥、指(一作稍)頭寒、嘿嘿不欲食、煩躁、數日、小便利、色白者、此熱除也、欲得食、其病為愈。若厥而嘔、胸脇煩滿者、其後必便血。

傷寒熱少なく微厥(びけつ)し、指頭(しとう)寒(ひ)え、嘿嘿(もくもく)として食を欲せず、煩躁す。數日にして小便利し、色白き者は、此れ熱除くなり。食を得んと欲するは、其の病愈ゆること為す。若し厥して嘔し、胸脇煩滿する者は、其の後必ず便血す。

 

【三四〇条】

病者手足厥冷、言我不結胸、小腹滿、按之痛者、此冷結在膀胱關元也。

病者手足厥冷し、我結胸せずと言う。小腹滿し、之を按じて痛む者は、此れ冷(れい)結んで膀胱關元に在(あ)るなり。

 

【三四一条】

傷寒發熱四日、厥反三日、復熱四日。厥少熱多者、其病當愈。四日至七日熱不除者、必便膿血。

傷寒發熱すること四日、厥すること反って三日、復た熱すること四日、厥少なく熱多き者は、其の病當に愈ゆべし。四日より七日に至りて熱除かざる者は、必ず膿血を便す。

 

【三四二条】

傷寒厥四日、熱反三日、復厥五日、其病為進。寒多熱少、陽氣退、故為進也。

傷寒厥すること四日、熱すること反って三日、復た厥すること五日、其の病進むと為(な)す。寒多く熱少なく、陽氣退(しりぞ)くが故に進むと為すなり。

 

【三四三条】

傷寒六七日、脉微、手足厥冷、煩躁、灸厥陰。厥不還者、死。

傷寒六、七日、脉微、手足厥冷し、煩躁するは、厥陰に灸す。厥還(かえ)らざる者は、死す。

 

【三四四条】

傷寒發熱、下利、厥逆、躁不得臥者、死。

傷寒、發熱し、下利し、厥逆し、躁して臥(ふ)すことを得ざる者は死す。

 

【三四五条】

傷寒發熱、下利至甚、厥不止者、死。

傷寒、發熱し、下利甚しきに至り、厥止まざる者は死す。

 

【三四六条】

傷寒六七日不利、便發熱而利、其人汗出不止者、死、有陰無陽故也。

傷寒六、七日利せず、便(すなわ)ち發熱して利し、其の人汗出でて止まざる者は死す。陰有りて陽無きが故なり。

 

【三四七条】

傷寒五六日、不結胸、腹濡、脉虛、復厥者、不可下、此亡血、下之死。

傷寒五六日、結胸せず、腹濡(なん)、脉虛し、復た厥する者は、下すべからず。此れ亡血なり。之を下せば死す。

 

【三四八条】

發熱而厥、七日下利者、為難治。

發熱して厥し、七日にして下利する者は、治し難しと為す。

 

【三四九条】

傷寒脉促(促一作縱)、手足厥逆、可灸之。

傷寒、脉促(そく)、手足厥逆するは、之を灸すべし。

187.厥陰病 326条・337条 綱領

【三二六条】

厥陰之為病、消渴、氣上撞心、心中疼熱、飢而不欲食、食則吐蚘、下之利不止。

厥陰之病為(た)るや、消渴(しょうかつ)し、氣上りて心を撞(つ)き、心中疼(いた)み熱し、飢えて食を欲せず、食すれば則ち蚘(かい)を吐し、之を下せば利止まず。

  厥陰の病というのは、飲料を貪り飲みたくなる消渇があり、気が上逆して心胸に突き上がり、胸中が疼くように熱する。

 一方お腹は、空腹であるにもかかわらず食が進まず、強いて食べると吐いてしまう。(蚘の文字は除く)

 また陽明病と似ているので、誤治をして下法を用いると、下利が止まらなくなる。

 恐らく、止まらなくなった下利から少陰病位に行くのだと思われます。

 三陰経の病位の順序は、一般成書と異なり、太陰→厥陰→少陰→死となります。 

 

 消渇に関しては、五苓散や白虎湯などが思い浮かびますが、どうもそれらの証では無いことは、その他の証候を見ると明らかです。

 胸の疼きと煩熱、飢えて食を欲せず、食すると吐くのはそれぞれ虚実が錯綜している状態が考えられます。

 また、以下の337条を見ますと、手足が厥冷するものは、陰陽の気が交流しないからであると述べられています。

 上焦と下焦、内と外、いずれも空間的に乖離してしまった状態・交流しない状態と理解できます。

 ざっくりこんな感じでしょうか。

 表証は綱領がはっきりしていますが、少陽・厥陰部位に邪が侵入してくると複雑になるので、はっきり「こうだ」と言い切れない状態になるのでしょう。

 327条から336条は、原文と読み下し文のみです。

 

【三三七条】

凡厥者、陰陽氣不相順接、便為厥、厥者、手足逆冷者是也。

凡(およ)そ厥する者は、陰陽の氣相(あ)い順接せず、便(すなわ)ち厥を為(な)す、厥する者は、手足の逆冷する者是(こ)れなり 。

【三二七条】

厥陰中風、脉微浮為欲愈。不浮為未愈。

厥陰の中風、脉微浮なるとは愈えんと欲すと為す。浮ならざれば未だ愈えずと為す。

 

【三二八条】

厥陰病欲解時、從丑至卯上。

厥陰病解せんと欲する時は、丑(うし)從(よ)り卯(う)の上に至る。

 

【三二九条】

厥陰病、渴欲飲水者、少少與之愈。

厥陰病、渴して飲水せんと欲する者は、少少之を與えれば愈ゆ。

 

【三三〇条】

諸四逆厥者、不可下之。虛家亦然。

諸々の四逆して厥する者は、之を下すべからず。虛家も亦(ま)た然(しか)り。

 

【三三一条】

傷寒先厥後發熱而利者、必自止、見厥復利。

傷寒、先に厥し後(のち)發熱して利する者は、必ず自(おのずか)ら止む。厥を見(あら)わせば復た利す。

 

【三三二条】

傷寒、始發熱六日、厥反九日而利。凡厥利者、當不能食。今反能食者、恐為除中(一云消中)、食以索餅。不發熱者、知胃氣尚在、必愈。恐暴熱来出而復去也。後日脉之、其熱續在者、期之旦日夜半愈。

所以然者、本發熱六日、厥反九日、復發熱三日、并前六日、亦為九日、與厥相應、故期之旦日夜半愈。後三日脉之、而脉數、其熱不罷者、此為熱氣有餘、必發癰膿也。

傷寒、始め發熱すること六日、厥すること反って九日にして利す。凡(およ)そ厥利する者は當に食すること能わざるべし。今反って能く食する者は、恐らくは除中(じょちゅう)と為す。

食するに索餅(さくへい)を以て發熱せざる者は、胃氣尚(な)お在るを知る。必ず愈ゆ。恐らくは暴(にわ)かに熱来(きた)り出ずるも復た去らん。後日之を脉して、其の熱續(つづ)いて在る者は、之を期するに旦日(たんじつ)夜半に愈えん。然る所以(ゆえん)の者は、本(もと)發熱すること六日、厥とすること反って九日、復た發熱すること三日、前の六日を并(あわ)せて、亦(ま)た九日と為し、厥と相い應(おう)ず。故に之を期するに旦日夜半に愈ゆ。後三日之を脉して脉數(さく)、其の熱罷(や)まざる者は、此れ熱氣有餘(ゆうよ)と為す。必ず癰膿(ようのう)を發するなり。

 

【三三三条】

傷寒脉遲六七日、而反與黄芩湯徹其熱。脉遲為寒、今與黄芩湯復除其熱、腹中應冷、當不能食。今反能食、此名除中、必死。

傷寒脉遲なること六、七日、而(しか)るに反って黄芩湯を與えて其の熱を徹(てっ)す。脉遲は寒と為す。今、黄芩湯を與え復た其の熱を除く。腹中應(まさ)に冷ゆべし。當に食すること能わざるべし。

今反って能(よ)く食するは、此れを除中(じょちゅう)と名づく。必ず死す。

 

【三三四条】

傷寒、先厥後發熱、下利必自止。而反汗出、咽中痛者、其喉為痺。發熱無汗、而利必自止。若不止、必便膿血。便膿血者、其喉不痺。

傷寒、先に厥して後に發熱するは、下利必ず自(おのずか)ら止む。而(しか)るに反って汗出で、咽中痛む者は、其の喉痺(こうひ)を為す。發熱し汗無くして、利必ず自ら止む。若し止まざれば、必ず膿血を便す。膿血を便する者は、其の喉痺せず。

 

【三三五条】

傷寒一二日至四五日厥者、必發熱。前熱者、後必厥。厥深者熱亦深、厥微者熱亦微。厥應下之、而反發汗者、必口傷爛赤。

傷寒一、二日より、四、五日に至り、厥する者は、必ず發熱す。前に熱する者は、後必ず厥す。厥深き者は熱も亦(ま)た深く、厥微(び)の者は熱も亦た微なり。厥は應(まさ)に之を下すべし。而(しか)るに反って汗を發する者は、必ず口傷(やぶ)れ爛(ただ)れて赤し。

 

【三三六条】

傷寒病、厥五日、熱亦五日、設六日當復厥。不厥者自愈。厥終不過五日、以熱五日、故知自愈。

傷寒の病、厥すること五日、熱することも亦(ま)た五日、設(も)し六日には當(まさ)に復(ま)た厥すべし。厥せざる者は自(おのずか)ら愈ゆ。厥すること終(つい)に五日を過ぎずして、熱すること五日を以ての故に自ら愈ゆるを知る。

 

 

186.少陰病 324・325条 四逆湯 瓜蒂散

【三二四条】

少陰病、飲食入口則吐。心中温温欲吐、復不能吐。始得之、手足寒、脉弦遲者、此胸中實、不可下也、當吐之。

若膈上有寒飲、乾嘔者、不可吐也、當温之、宜四逆湯。二十三(方依上法)。

少陰病、飲食口に入れば則ち吐す。心中温温(うんうん)として吐せんと欲すも、復た吐すこと能わず。始め之を得て、手足寒(ひ)え、脉弦遲の者は、此れ胸中實(じつ)す。下すべからざるなり。當に之を吐すべし。

若し膈上に寒飲(かんいん)有りて、乾嘔(かんおう)する者は、吐すべからざるなり。當に之を温むべし。四逆湯に宜し。二十三(方は上法に依(よ)る)。

 少陰病で、飲食を口にすると吐いてしまった。また胸がむかむかとして吐きたいのだけれども吐くことが出来ない。

 そして手足が冷えてきて脉が弦遅となった。

 これは胸中に邪実が存在しているからなので下してはならず、吐法を用いなさいと述べられています。

 これは、瓜蒂散証ですね。 実証ですから脈は沈遅で有力ですね。

 119.太陽病(下)166条 瓜蒂散

 そして膈の上(胸中)に寒飲が存在し、空えずきするようであれば、瓜蒂散ではなく四逆湯あたりで温めなさいと言う事ですね。

 瓜蒂散も四逆湯も、胸中に何らかの邪が存在していると述べていますが、恐らくこれは患者自身の自覚的な感覚を言っているのだと思います。

 術者の他覚的所見では、必ず心下に何らかの反応が出ているはずだと思います。

 

 実際に吐いた後に、吐こうとしても吐くことができず、脉沈遅有力となるのは、実邪が結実しているからで、だから四肢も冷える。

 ところが空えずきの場合は、虚証であるから脈も、微細無力のはずです。だから瀉法である吐剤を用いてはならないということでしょう。

 吐きたくても、吐く力がすでにないと言う事ですね。

 少陰病は、本条で終わりです。

 325条は、原文と読み下し文のみの掲載です。

 次回からは、いよいよ厥陰病に入って参ります。

 みなさま、大変お疲れさまでした。

【三二五条】

少陰病、下利、脉微濇、嘔而汗出、必數更衣、反少者、當温其上、灸之(脉經云灸厥陰可五十壮)。

少陰病、下利し、脉微濇(しょく)、嘔して汗出で、必ず數(しば)しば更衣(こうい)するも、反って少なき者は、當に其の上を温め、之を灸すべし(脉經に云う、厥陰に灸すること五十壮とすべしと)。

185.少陰病 322・323条 大承気湯 四逆湯

【三二二条】

少陰病、六七日、腹脹、不大便者、急下之、宜大承氣湯。二十一(用前第十九方)。

少陰病、六、七日、腹脹(は)りて、大便せざる者は、急に之を下す、大承氣湯に宜し。二十一(前の第十九方を用う)。

 少陰病になって6・7日経過しているのですから、320・321条よりは、経過が緩慢ですね。

 しかし、お腹が脹ってきて便秘しているようなら、これもまた急いで下しなさいとあります。

 この場合も、やはり口乾・咽燥があると考えるべきでしょうね。

 脈も、少陰病の脈微細から滑実もしくは沈遅となるのでしょう。

 これ、脈微細からの変化を追いかけて、腹部の兆候と口乾・咽燥など、他の所見から病理変化を捉えるしかないのかなと考えています。

 症例としては、なかなか判断の難しいところとなると思いますし、実際、脉微細のものが滑実・沈遅となった場合、承気湯類を用いるには勇気が要るだろうと思います。

【三二三条】

少陰病、脉沈者、急温之、宜四逆湯。方二十二。

少陰病、脉沈の者は、急ぎ之を温む。四逆湯に宜し。方二十二。

 少陰病で、脈微細で急に脈が沈んでさらに触れにくくなった。

 これだけしか記されていないのですから、完穀下痢や四肢厥冷など余証が無くても、この脈の変化から危急の状態だと察知しなさいということかもしれません。

 しかも、「四逆湯に宜し」ですから、よく考えてみなさいという意図も感じます。

 場合によっては、通脈四逆湯や麻黄附子細辛湯、真武湯なども考え合わせて判断しなさいと言う事なのでしょう。

 少陰病篇の終わりになってくると、大承気湯などが登場して、陰陽・虚実変化の差が大きくなってます。

 病理変化に追いついて行けるだけの、よほどしっかりとした認識力が試されますね。

 

184.少陰病 321条 大承気湯

【三二一条】

少陰病、自利清水、色純青、心下必痛、口乾燥者、可下之、宜大承氣湯。二十(用前第十九方一法用大柴胡)。

少陰病、清水(せいすい)を自利し、色純青(じゅんせい)、心下必ず痛み、口乾燥する者は、之を下すべし、大承氣湯に宜し。二十(前の第十九方を用う。一法に、大柴胡を用う)。

 少陰病で青色の清水を自利するとあります。

 これ清水とありますが、燥屎と腸管の間を流れ下って来た汚水のことです。

 こんなことも、あるのですねぇ。

 このような場合、心下は必ず痛み、口の中が乾燥してカラカラになるのですね。

 熱はあるし、飲んだ水は清水として下ってしまうのですから、さもありなんと言った感じですね。

 この場合も、前の320条のように、危急症状であるので、急いで下しなさいと記されています。

 ですがこのような場合、とっさに判断・決断できるでしょうか。