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ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

一源三岐論と開・合・枢理論の応用・・・列欠穴と後谿穴

 ここに至るまでに、一源三岐論と開・合・枢理論について詳細に述べてきた。

 筆者が、この二つの理論を併せてどのように臨床に応用しているのかを述べます。


 衝脉主治穴・・・公孫穴の使い方については、すでに本ブログ内の一源三岐について(3)・・・衝脈で述べています。


 従ってこれから、任脈主治穴・・・列欠穴と、督脈主治穴・・・後谿穴の穴性、つまり使い方に入って参ります。



 周知の通り、任脈は腹部を通り、督脈は背部を通っている。


 そこで腹部の募穴と兪穴の性質の違いを明確にすると、任脈と督脈の性質の違い=列缺穴と後谿穴の使い方が明確になるとの目論見である。


 まず、募と兪の字源から説いてみる。


 募は、莫に摸(も=さぐる・とる)の意味がある。広く人を「つのる」ことをいう。力(りょく)は耒(すき)のかたちであるから、農業に従事する人を募るというのがもとの意味であろう。


 兪は、舟(月)と余とを組み合わせた形。舟は盤の形。余は把手(とって)のついた手術刀の形で、この手術刀で患部の膿血(うみしると血)を刺して盤中に移し取ることを兪といい、病気や傷が「なおる、いえる」の意味となる。

                                             <常用字解 白川静>
 

 本ブログの
< 開・合・枢理論(3)・・・足の三陰の機能面からで述べているように、陽は清、陰は濁。濁は入り混じってはっきりしない様である。


 さらに、腹部募穴は合、背部兪穴は開となる。


 実際、背部の経絡走行は、足太陽経一経であるのに対して腹部は複数の経絡がそれぞれ交会しながら流注している。下肢の陰経の流注も同様に交差している。


 腹部募穴には濁陰が聚り、背部兪穴には清陽が聚る。そして背と腹は陰陽関係で前後交流している。
 このことから帰納されるのは、背部兪穴の虚実はそのまま臓腑の診断的意義が高く、腹部募穴は様々な経絡が流注しているので、臓腑の診断的意義はかなり低いとみるのが妥当である。

 たとえばつまり、胃募である中脘穴には様々な経絡が流注しているため、仮に中脘穴が実を呈していても、その実がそのまま胃の腑のみの異常・原因とは診断できないということである。




 また病理的には、図のように陽病は陰・腹部に行き、陰病は陽・背部に行く。
 
 陽病は陰に行くとは、外邪伝変経路であり、陰病は陽に行くとは、腹部内傷病の伝変経路のことである。
 
 陽病(外邪)の伝変経路の詳細は、傷寒六経と温病に記されている通りで、傷寒六経を例にしてみると、上背部太陽から侵入した風寒の邪が側面少陽→腹部陽明からさらに深く腹部内部に侵入するのがそれである。
 
 陰邪(内傷病・内邪)の伝変ルートに関して体系だったものは、筆者の知るところには無い。

 しかし飲食の不摂生や七情内鬱などによって生じる内生の邪気は、まず腹部の邪実を呈し、やや時間を経て次第に背部に現れる事は臨床観察で得ている。
 
 このことは、背部膈兪穴と腹部不容穴、肩背部督脈身柱穴~神道穴、足太陽の肺兪~心兪穴付近と腹部巨闕穴、心下周辺の虚実の変化を観察すると捉えやすい。
 
 これらのことを、開・合・枢理論と重ねると、外感表証の場合、駆邪は開である太陽部位に導き、内傷病の場合は、合である陽明に導くのが一般的で、外感病は、汗法で発表解肌し、内傷病は下法で通腑するのが理に適うことになる。


 さらにまた、身体正中を走行する任脈・督脈は、左右で気血のバランスを調整する。


 素問・陰陽応象大論に、<左右者陰陽之道路也>「陰陽は左右の道路なり」とは、このことである。


 従って任脈・督脈は、左右の枢である。


 督脈上の経穴一穴に刺鍼し、背部兪穴全体がどのように変化するかを捉えると、逆に病因病理が見えてくる。


 これはセミナーなど、多くの人の目前で確認してもらっていることである。



 督脈の走行と左右が順調に営まれるのは、伸びやかな心神の働きが必須であり、心の陽の働きである手太陽の後谿穴が、督脈の清陽の昇降を主っている。さらに言えば、腎陽のコントロールを行っている。


 また任脈は、肺魄の働きにより、陰濁が昇降する。腎陰は、肺
魄によってコントロールされている。




上下二陰、中心一陽 離火の卦
 左図のように、一陽が二陰に挟まれた離火の卦である腎を原子炉に例えると、炉の中心部の陽気とその周囲の冷却水の調整を、天に位置する心肺が協調して行っているということである。

 そして気滞を生じると、上下だけでなく、左右気血のバランスも失調し、身体の気の偏在が大きくなるのである。

 この点において、中医学では気機を昇降出入の四点でとらえているが、これは湯液家を対称としているためである。

 鍼灸師の場合、左右差の問題は重要な問題提起を示す。

 このように捉えると俄然、後谿穴と列欠穴の使い方に幅が出てくる。

 左右は、中正の官を擁している肝胆が主るが、肝胆を治療しても気が動かないものに対して、後溪穴はとてもよく奏効する。

 また後谿穴に瀉法を加えることで、心の臓の鬱熱を清し、安心作用を来すこともできる。


 また
寒邪の程度が非常に強く、麻黄湯証(表寒実証)であるにもかかわらず、なかなか発汗が見られない者でも、後谿穴に灸点紙を用いて灸温補法を加えると、即座に発汗させることができる。


 また同じく桂枝湯証(表寒虚証)で、発汗して気が漏れ止まない者に対して、後谿穴に鍼で補法を加えることで止汗させ、漏れを止めることもできる等々。


 また心火が上炎する者に対して、後谿穴に瀉法を加えることで三黄瀉心湯証などに対応することもできる。


 また心の鬱熱による不眠や理由の無いむなさわぎなど、瀉法を加えることで心熱を清することもできる。



 列欠穴も同様に風寒に侵され、表邪の存在と陰気不足による空咳を呈する場合や麦門冬湯証などの場合に、補法を加えることにより、肺に陰気を聚めて潤すことで肺熱を清し、同時に表邪を駆逐することができる。


 また、下肢に陰邪が停滞し、しびれ・疼痛を来した痹証などの場合も、列欠穴を補い、陰邪を引き上げることで相対的に下肢の陽気を回復させ、上部で邪気を散ずることで駆邪することができる等々。


 熱痰が上焦を襲い、心神の異常亢進による統合失調証などでは、いわゆる「見える・聞こえる」といった幻視・幻聴に対して列欠穴に瀉法を加えると、即座に
幻視・幻聴が止まる事を筆者の臨床経験で得ている。また実喘などに瀉法を加えると、かなり有効である。


 後谿穴、列欠穴、公孫穴のわずか三穴で、腰痛から精神疾患、内臓の病変に至るまで、かなりの範囲の疾患に対応することができる。


 それにはまず、病態認識力と切診力を高め、気の偏在を的確に見据えた上で、一心を込めた鍼を刺す。


 これが概要でありかつ、重要な点であり、さらに日々刃物を磨くように修練を重ねることは、言うまでもないことである。