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ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

邪気の向かう方向と場所

筆者 : 金澤秀光
春  つぼみ  あいらしい




 いよいよ春めいて参りましたね。

 これから三寒四温と呼ばれているように、寒暖を繰り返しながら夏に向かって行くわけですが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 治療家の皆さまの元には、この時期様々な患者さんが来られていると思います。

 今回は、症状の意味と邪気の動きについて簡単に説明し、例を用いてシュミレートしたいと思います。西洋医学的な病名も挙げていますが、これも一般的な例えとして、絶対視・固定的に捉えないでください。

 この時期は、冬の蔵する気から春の生まれる気へと、自然界の気が動きますので、それに従って身体の気も浮いてくることは、常連の読者諸氏には、すでにご理解頂いていると思います。

 問題は、正常な気の動きと歩調をそろえて浮いてくる邪気です。

 邪気と正気は、別々に動くのではなく、一緒になって動くのだという点と、現れている症状は、邪気が出口で渋滞している姿として捉えてください。


 陰邪は、その性質から動きが遅く、なかなか退きません。

 陽邪は、その性質から動きが早く、突発的症状を演出致しますので、みなさま苦心なさっていると思います。


 基本的な気の動きである気機は、昇降出入の四パターンですから、邪気の動きも基本的には同じになります。

 昇降に関しては、熱に代表される陽邪は、上に抜けたがり、水に代表される陰邪は下から出たがります。

 これが基本形です。


 では陰邪と熱邪が結んでしまった場合、どのように動くのかということが課題になります。

 これは、上下のどちらにも現れて来るのですが、それを決定づける要因が三つあります。

 一つには、陰邪と陽邪の偏り、つまり偏盛です。陰邪の傾向が強ければ下に向かいますし、陽邪の傾向が強いと上に向かいます。

 陰邪と陽邪偏盛は二つ。

 陰邪>陽邪であれば、邪気の方向は下に降りようとします。

 陰邪<陽邪であれば、上に昇ろうとします。


 二つには、いわゆる怒喜悲憂驚恐の七情がらみ。

 これらはおおむね邪気を上方向に向かわせます。


 三つには、生体の虚実の問題。


 これらの兼ね合いで、邪気の動く方向が決まります。

 腹部所見や背部兪穴のバランスを見ると、おおよそどの方向に邪気が向かおうとしているのかが読み取れます。

 いろいろと、組み合わせてイメージしてみてください。


 例えば、三つ目の虚実にからめて、あるパターンを想像してみます。

 素体として、よく見られる上実下虚の腹診所見を想定してみます。

 上実下虚の腹証は、皆様ご存知の通り、相対的にみずおちの心下が硬く詰まり、丹田を中心とした辺りが軟弱になりますよね。

 この上実下虚は、上下の相対性を言っているのであって、身体の正気の虚実(絶対的)を言っているのではありません。

 上実下虚であれば、一般的に言われているように、虚証などと即断するのは早計に過ぎるというものです。

 ざっくり、上実下虚を起こす二つのパターンを説明します。

 A. 実パターン
 上実を起こす原因は、食べ過ぎ飲みすぎ、七情内鬱、肝気上逆、外邪の侵襲などの邪実を中心にして生じる場合。

 この気の偏盛状態が長く続くと、次第に丹田が軟弱無力となり、結果上実下虚を形成します。

 B. 虚パターン
 過労・加齢などによって、腎気が損なわれると、丹田の力が弱くなり、上に在る本来降りるべき気が、納気されないので降りて来ることができず、上実下虚が形成されます。この場合は、正気の虚によって生じます。

 他にも上実下虚を形成するパターンはあるのですが、ざっくりこの虚実の二つパターンでシュミレートしてみましょう。

 AとBのパターンに陰邪と陽邪の偏盛を掛け合わせます。


 Aの実証×陰邪>陽邪の場合。

 たとえ下に降りやすい陰邪>陽邪であっても、上に症状が現れやすい傾向になります。

  この場合、薄い痰と喘鳴を伴う咳や喘息、大量の水様の鼻水、顔面や手の浮腫、などの症状が現れやすくなります。

 陰邪が陽気を阻むと、ふらつくようなめまいを生じたり、貧血に似た症状が現れます。

 Aの実証×陰邪<陽邪の場合。

 突発的な発作症状が現れやすい傾向にあります。

 突発性難聴、癲癇発作、気道狭窄や気管支喘息発作などがその代表例です。

 その他顔面の熱感を伴う眼科・耳鼻咽喉の炎症症状、目やに、喀出しにくい粘黄色の痰などが出やすくなります。


 次にBの虚証×陰邪>陽邪の場合。
 
 下に症状が現れやすい傾向にあります。

 上にも症状が現れますが、下半身を中心とした症状が現れやすくなります。

 下半身の正気の虚に乗じて陰邪が流れ込んでくるので、下半身の浮腫みや陰部の炎症、尿道・膀胱の炎症や尿漏れ・尿切れがわるいなど、それらに類する症状、だるく重い腰痛、内臓の腫瘍などを生じやすくなります。

 Bの虚証×陰邪<陽邪の場合。

 顔面部、上半身に気が集まり、下に降りて行かないので、興奮しやすく、ちょっとしたことで怒る、耳鳴り難聴、不眠、意識障害や脳血管障害などなどが現れやすくなります。

 これに、先に述べた七情を掛け合わせると、とてもここでは書ききれません。


 邪気の向かう方向は、邪気が出たがっている方向でもあり、正気が邪気を追い出したい方向であるとも言い換えることができます。

 邪気の出口は、目・鼻・耳・口、肛門と尿道口などのいわゆる九竅と、頭部(主に熱邪)と皮膚の毛穴がその主な場所です。


 症状は、邪気と正気のせめぎあいによって、邪気がすっと順調に出なかったり、一気に出口に押し寄せることで渋滞を来している姿ともいえます。


 病の種類や症状は、森羅万象のごとく多様であっても、陰陽の変化や気の動きの性質を理解していると、現象を通じて内面の気の動きを察知することが出来ます。

 そうすると、症状=現象を現した背景にある患者の人となりや、生活の習慣が見えてきます。

  邪の種類と性質、正気の状態と七情を掛け合わせ、補瀉の先後を計画し、その上でシャープな補瀉を加えると、身体は素直に反応するものです。

 


 一の会