ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

12.太陽病(上)桂枝加葛根湯と葛根湯

 桂枝加葛根湯と葛根湯の共通点とその違いを明確にすると、どのように鍼治療に生かせるか・応用するのかが見えてきます。

 もう少し詳しく論じてみたいと思います。 

 桂枝加葛根湯と葛根湯の共通点をまとめます。

 二剤はともに太陽病位であること。

 悪風があること。・・・以上の二項目=桂枝湯証

 項背が厳しく強ばること、の3点です。・・・葛根

 違いは、有汗と無汗の1点です。・・・麻黄

 

 桂枝加葛根湯方をみますと、林億(11世紀)らがおそらくは桂枝湯に葛根を加えただけのものが桂枝加葛根湯であると主張していることが分かりますね。

 この林億の主張は、正しいと思います。

 葛根湯は、桂枝湯に麻黄と葛根を加えたものです。

 では、ともに厳しい項背の強ばりがあっても、桂枝加葛根湯の強ばりと葛根湯の強ばりは、病理が少し異なることが理解されます。

 この病理の違いのひとつは麻黄にあり、さらに共通の項背の強ばりに対しては、葛根の役割・働きを理解すれば解けることになります。

 どうでしょう、きわめて数学的・理論的ですね。

 

 麻黄と葛根の気味と働き・効能を見てみましょう。

 麻黄の気味は辛温。

 気味は桂枝と同じですが、麻黄は発散力に優れており、水を動かす力が大きい薬剤です。

 薬徴では、「喘咳水気を主冶するなり」とありますので、胸部に水が存在していることが分かります

 葛根の気味は甘微寒。

 薬徴:項背強ばるを治す。傍ら喘して汗出るを治す。

 増補薬能(荒木正胤):胃熱を去りて津液を生ず。痘疹の出難きに持ちゆ。

  とあります。

 麻黄は、辛温で発汗剤ですので、無汗で実の状態に用いる瀉剤ですね。

 肌表で水がうっ滞している姿です。

 これだけで桂枝加葛根湯と葛根湯の違いが理解できますね。

 分かりにくいのが、葛根です。

 吉益東洞は、葛根は山の尾根つたいに根を伸ばしているので、人の尾根である背に走るとしています。

 これではよく分かりませんよね。

 しかしこのことにより、項背の背は、肩背部だけでなくもっと広範囲であっても良いと考えられます。

 つまり、腰痛にも応用できることを示しています。

 実際、風寒の邪による腰痛は存在しますので、みなさましっかり証を見極めてくださいね。

 また腹証奇覧(稲葉克文礼・ 和久田寅叔虎 著)では、背中が曲がってしまった、いわゆる「せむし」を、葛根湯の大剤で治していることが記されています。

 

 一方、増補薬能をみると、少しわかりやすいのではないでしょうか。

 津液を生じるとありますので、薬徴を併せてみるとこの津液は項背に走るのだと分かりますよね。

 ですから痘疹の病毒も、この津液によって押し出されると考えることが出来ます。

 中医学で葛根の効能を透発斑疹としているのは、このことを言っているのだと思います。

 肌表部位での表裏は葛根。

 膈部位での表裏は柴胡と覚えておかれると良いと思います。

 柴胡に関しては、少陽病で再度詳しく触れます。

 このようにみると、桂枝加葛根湯の厳しい項背の強ばりは、自汗はしていても肌表で病邪を押し出す津液が不足しているからだと理解されます。


 ですから桂枝加葛根湯方には、<必ずしも粥をすする必要がない>とわざわざ言っています。

 一方、葛根湯の厳しい強ばりは、肌表で正邪が拮抗しているので無汗であり、さらにそれを発散させるには、やはり津液が必要であることが分かります。

 ややこしいですが、しっかりと読み込んで理解して下さいね。

 麻黄の発汗解表の働きを、鍼で行うにはどうすればいいのでしょうか。

 病理さえ捉えることができれば、穴性学と空間論を組み合わせると見えてきま

〔桂枝加葛根湯方〕

葛根(四兩)麻黄(三兩去節)芍藥(二兩)生薑(三兩切)甘草(二兩炙)大棗(十二枚擘)桂枝(二兩去皮)

右七味、以水一斗、先煮麻黄、葛根、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。覆取微似汗、不須啜粥、餘如桂枝法將息及禁忌。(臣億等謹按仲景本論、太陽中風自汗用桂枝、傷寒無汗用麻黄、今證云汗出惡風、而方中麻黄、恐非本意也。第三巻有葛根湯證云、無汗惡風、正與此方向、是合用麻黄也。此云桂枝加葛根湯、恐是桂枝中但加葛根耳。)

葛根(四兩)麻黄(三兩、節を去る)芍藥(二兩)生薑(しょうきょう)(三兩、切る)甘草(二兩、炙(あぶ)る)大棗(たいそう)(十二枚、擘(つんざ)く)桂枝(二兩、皮を去る)

右七味、水一斗を以て、先ず麻黄、葛根を煮て、二升を減じ、上沫(じょうまつ)を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓(かす)を去り、一升を温服す。覆(ふく)して微(すこ)しく汗に似たるを取り、須(すべから)く粥を啜(すす)らず、餘は桂枝の法の將息(しょうそく)及び禁忌の如くす。

(臣億等謹んで仲景本論を按ずるに、太陽中風の自汗は桂枝を用い、傷寒の無汗は麻黄を用う。今の證は汗出で惡風すと云う。而して方中の麻黄、恐らく本意に非ざるなり。第三巻に葛根湯證は、無汗にして惡風すと云う有り、正に此の方と向かい、是れ麻黄を合して用うなり。此れ桂枝加葛根湯と云うは、恐らく是れ桂枝中に但だ葛根を加うるのみ。)