ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

29.太陽病(上)29条 擬似桂枝湯証と壊病(1)脚攣急

 この条文は、桂枝湯証によく似た証を誤治し、壊病となってしまった証とその対処法について書かれています。

 文章が長い上に、対処法の四方剤が挙げられていますので、何部かに分けて解説していきます。

【二九条】

傷寒脉浮、自汗出、小便數、心煩、微惡寒、脚攣急、反與桂枝、欲攻其表、此誤也。

得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、作甘草乾薑湯與之、以復其陽。

若厥愈足温者、更作芍藥甘草湯與之、其脚即伸。

若胃氣不和讝語者、少與調胃承氣湯。

若重發汗、復加燒鍼者、四逆湯主之。方十六。

傷寒の脉浮、自ずと汗出で、小便數(さく)、心煩、微惡寒し、脚(きゃく)攣急(れんきゅう)するに、反って桂枝を與(あた)え、其の表を攻めんと欲するは、此れ誤りなり。

之を得れば便(すなわ)ち厥(けつ)し、咽中乾き、煩躁吐逆する者は、甘草乾薑湯(かんぞうかんきょうとう)を作り之に與え、以て其の陽を復す。

若し厥愈え足温かなる者は、更に芍藥甘草湯を作り之を與うれば、其の脚即ち伸びる。若し胃氣和せず讝語(せんご)する者は、少しく調胃承氣湯(ちょうきじょういとう)を與う。

若し重ねて汗を發し、復た燒鍼(しょうしん)を加うる者は、四逆湯之を主る。方十六。

【意訳】

 傷寒の病に罹り、脈が浮いている。

 自汗が有り、小便の回数が多くて心煩し、少し悪寒があり、脚が厳しく引きつっている。

 このような状態に、桂枝湯を投与して表を攻めるのは誤りである。

 もし桂枝湯を投与すれば、脚は冷え、咽が乾き、煩躁して厳しく吐き気がするようになった者には、乾姜甘草湯を与え、陽気を回復させなさい。

 そして冷えが治まり足が温まって来たら、さらに芍薬甘草湯を作って与えれば、その引きつった脚は伸びるであろう。

 もし胃気が和せず、譫語するようであれば少し調胃承気湯を与える。

 もし誤って桂枝湯を与えて表を攻めた後に、さらに発汗させたり、また焼き鍼を加えて発汗さたのなら、四逆湯の証になる。

 

【解説】

 傷寒の病で、脈浮、自汗、微悪寒の症候が現れると、桂枝湯証と判断することが出来ます。

 ところが頻回の小便、心煩、脚攣急などの症候も同時に現れています。

 疑似桂枝湯証になった素体について考察してみます。

 脚攣急と四肢微急の病理の違いを確認するため、テキストP47 20条をご覧ください。

【二〇条】

太陽病、發汗、遂漏不止、其人惡風、小便難、四肢微急、難以屈伸者、桂枝加附子湯主之。方七。

太陽病、發汗し、遂に漏れ止まず、其の人惡風し、小便難、四肢微急(びきゅう)し、屈伸以て難き者は、桂枝加附子湯(けいしかぶしとう)之を主る。

 20条では、小便難であまり出ない。しかし四肢微急しています。

 桂枝加附子湯は、太陽と少陰の併病もしくは合病でした。

 本条29条には「脚攣急」とありますので、さらに少陰病位に近い太陽と少陰の合病であると推測できます。

 ところがです、陽虚傾向にさらに桂枝湯で発汗させ、陽虚となった証に乾姜甘草湯です。

 方剤の中に附子が配されていませんよね。

 では元々の病態は、少陰病レベルの陽虚ではなかったということになります。

 それでは、元々の病態をどのように考えるかです。

 その手がかりとしてもう一度、「脚攣急」の病理を考えてみます。

 自汗で陽気がもれているにもかかわらず、心煩が現れています。

 どこかに存在している熱が胸に迫っているのですね。

 小便は数なので下焦とは考えにくいです。

 

 まずは乾姜と甘草のみで、単純に中焦の陽気の回復を計っています。

 そうすると、自汗で陽気が洩れつつも、気虚気滞で内熱も盛んになり、加えて小便数ですから陰気も出て行ってる。

 ここまでくると、陰陽が次第に小さくなって悪化の一途をたどっているのではないかと推測できます。

 ちなみに虚証の水熱互結証、28条の桂枝去桂加茯苓白朮湯は、小便不利でした。

 だからあまり傷陰していないので攣急は起きない、むしろ重だるいはずです。

 内熱と小便数で、陽気だけでなく陰気が損なわれつつあるから「脚微急」ではなく、さらに厳しい「脚攣急」となっているのだと考えられませんでしょうか。

〔甘草乾薑湯方〕

甘草(四兩炙)乾薑(二兩)

右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

甘草(四兩、炙る)乾薑(二兩)

右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。

 

〔芍藥甘草湯方〕

白芍藥甘草(各四兩炙)

右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

白芍藥甘草(各四兩、炙る)

右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。

 

〔調胃承氣湯方〕

大黄(四兩去皮清酒洗)甘草(二兩炙)芒消(半升)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、内芒消、更上火微煮令沸、少少温服之。

大黄(四兩、皮を去り清酒で洗う)甘草(二兩、炙る)芒消(ぼうしょう)(半升)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、芒消を内(い)れ、更に火に上(の)せて微(すこ)しく煮て沸(わか)せしめ、少少之を温服す。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙)乾薑(一兩半)附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩、炙る)乾薑(一兩半)附子(一枚、生を用い皮を去り八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かちて温め再服す。強人は大附子一枚、乾薑三兩とすべし。