ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

62.太陽病(中)76条 心中懊憹(1)梔子豉湯

七六

發汗後、水藥不得入口、為逆。若更發汗、必吐下不止。

發汗、吐下後、煩不得眠、

若劇者、必反覆顛倒、心中懊、梔子湯主之。

若少氣者、梔子甘草湯主之。若嘔者、梔子生薑湯主之。

發汗後、水藥口に入ることを得ざるを逆と為す。若し更に發汗すれば、必ず吐下止まず。

發汗、吐下した後、虚煩し、眠るを得ず。

若し劇しき者は、必ず反覆顛倒(はんぷくてんとう)し、心中懊憹(おうのう)するは、梔子豉湯(しししとう)之を主る。

若し少氣する者は、梔子甘草豉湯(ししかんぞうしとう)之を主る。

若し嘔する者は、梔子生薑豉湯(しししょうきょうしとう)之を主る。

 

  この条文の冒頭に、太陽病もしくは傷寒の文字を挿入して、いくつかに分けて解説を試みます。

①太陽病、發汗後、水藥口に入ることを得ざるを逆と為す。

②若し更に發汗すれば、必ず吐下止まず。

③太陽病、發汗、吐下した後、虚煩し、眠るを得ず。

④若し劇しき者は、必ず反覆顛倒(はんぷくてんとう)し、心中懊憹(おうのう)するは、梔子豉湯(しししとう)之を主る。

⑤若し少氣する者は、梔子甘草豉湯(ししかんぞうしとう)之を主る。

⑥若し嘔する者は、梔子生薑豉湯(しししょうきょうしとう)之を主る。

 

①では、太陽病で発汗させたところ、水薬を受け付けなくなってしまった状態で、誤治であると述べられています。どのような証に誤治を施したのは不明ですが、胃気が傷害された状態です。

②胃気が傷害されたその上に、さらに発汗法を用いたところ、吐下が止まらなくなったと述べられています。

③は、「発汗、吐下の後」とありますから①と②の経過を経た後に、虚煩して眠ることが出来なくなる症状が現れたとあります。

 煩は胸の辺りがモヤモヤ、ソワソワして精神的に落ち着かない状態です。

 そしてこの「虚煩」は、正気の虚であるのか、それとも吐下の後であるので、宿食や燥屎が無いことを示しているのかという疑問が生じます。

 なぜなら、梔子豉湯には、補剤が配されていないからです。

④虚煩して眠れなくなった状態が、劇症となると反覆顛倒=じっとしておれずにしきりに寝返りなどをするようになり、心中懊憹=煩の激しい状態で悶えるような何とも形容しがたい苦しさが現れてきたとあります。

 さて、ここでこの梔子豉湯の病態を配剤から推測してみたいと思います。

 山梔子の気味は苦寒薬で、薬徴では心煩を治すとされ、新古方薬嚢でも同様に熱を去り胸中の悶え苦しみを除き、或は心中の痛みを鎮めるとされています。

 総じて、胸部の清熱を目標にしているようです。

 そして香豉です。

 気味は甘寒で、新古方薬嚢では、胸心中の鬱熱を除くとあります。

 これだけでは、虚煩の病態が今ひとつ明確になりません。

 そこで香豉についてさらに新古方薬嚢で調べてみました。

 香豉は、黒大豆の納豆を乾燥させたものです。

 著者の荒木性次こと朴庵先生は、大豆と黒大豆を解毒に用いています。

 香豉と杏仁で馬肉の中毒に。

 香豉単味では、生山椒の口の閉じた実を食べ、仮死状態となったもの。

 総じて、傷んだ干し肉、動物の肝臓を食して中毒になったものに奏功すると記されています。

 山梔子も香豉も共に寒薬です。

 ここで、虚煩は、正気の虚による煩ではないことが分かります。

 では胸中の熱は、どこから逃がすのでしょう。

 そして、胸中の熱源は、そもそも一体どこなのでしょう。

 また梔豉湯証になる素体として、どのような状態が予測できますでしょう。

 これらのことが分かると、鍼での応用が出来ますね。

 しばらく、このあたりに焦点を当て考察を重ねたいと思います。

 

〔梔子湯方〕

梔子(十四箇擘) 香(四合綿裹)

右二味、以水四升、先煮梔子、得二升半、内、煮取一升半、去滓、分為二服、温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 香豉(こうし)(四合、綿もて裹(つつ)む)

右二味、水四升を以って、先ず梔子を煮て二升半を得、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて二服と為(な)し、一服を温進(おんしん)す、吐を得る者は、後服(こうふく)を止(とど)む。

〔梔子甘草湯方〕

梔子(十四箇擘) 甘草(二兩炙) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、甘草、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 甘草(二兩炙る) 香豉(こうし)(四合綿を裹(つつ)む)

右三味、水四升を以て、先ず梔子、甘草を煮て、二升半を取る、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。

〔梔子生薑湯方〕

梔子(十四箇擘) 生薑(五兩) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、生薑、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇擘) 生薑(五兩) 香豉(四合綿裹)

右三味、水四升を以て、先ず梔子(しし)と生薑を煮て、二升半を取り、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去る、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。