ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

63.太陽病(中)76条 心中懊憹(2)催吐薬?

【七六条】

發汗後、水藥不得入口、為逆。若更發汗、必吐下不止。

發汗、吐下後、虛煩不得眠、

若劇者、必反覆顛倒、心中懊憹、梔子豉湯主之。

若少氣者、梔子甘草豉湯主之。若嘔者、梔子生薑豉湯主之。

發汗後、水藥口に入ることを得ざるを逆と為す。若し更に發汗すれば、必ず吐下止まず。

發汗、吐下した後、虚煩し、眠るを得ず。

若し劇しき者は、必ず反覆顛倒(はんぷくてんとう)し、心中懊憹(おうのう)するは、梔子豉湯(しししとう)之を主る。

若し少氣する者は、梔子甘草豉湯(ししかんぞうしとう)之を主る。

若し嘔する者は、梔子生薑豉湯(しししょうきょうしとう)之を主る。

 前回、虚煩は、正気の虚による煩ではないことを述べました。

 そして以下のような疑問が三点出て参りました。

 ①胸中の熱は、どこから逃がすのでしょうか。

 ②胸中の熱源は、そもそも一体どこなのでしょうか。

 ③梔豉湯証になる素体として、どのような状態が予測できますでしょうか。

 

  ①胸中の熱は、どこから逃がすのかということに関しては、梔子豉湯方の最後に得吐者、止後服」と書かれていますので、梔子豉湯は吐法なのかなと思いがちです。

 他の吐剤を見てみます。

 <厥陰病> P150 355条 瓜蒂散。

【三五五条】

病人手足厥冷し、脉乍(たちま)ち緊の者は、邪結んで胸中に在り、心下滿して煩し、飢(う)ゆれども食すること能わざる者は、病胸中に在り。當に須(すべから)く之を吐すべし。瓜蔕散。

 ここでは、邪が胸中で結んでいるので、病は胸中にあるとしています。

またP304<金匱要略・腹満寒疝宿食病>27条

宿食在上脘、當吐之、宜瓜蒂散

 ここでは、宿食がある場合は、吐かせなさいとあります。

 瓜蒂散証にも煩がありますが、邪実による実煩です。

 ですから、実際に吐かせる吐剤です。

 一方、梔子豉湯方では、発汗・吐下の後に現れた証であるにもかかわらず、服用後、場合によっては吐くことがあると述べられています。

 吉益東洞の高弟、中西深斎は、瓜蒂散と梔子豉湯は共に劇易の違いの吐剤であり、瓜蒂散服用後は吐を必須とし、梔子豉湯服用後は吐を必須としないので、吐を得たのなら後服を止めるのだと言っています。

 一方、稻垣先生によると、瓜蒂散方にも香鼓が配されているため、条文が紛れ込み、誤って吐剤と見なされるようになったと主張しています。


 中薬学では催吐薬とされていませんし、実邪による煩でない虚煩ですので、稻垣先生の推測が正しいように思います。

 そうすると③の素体として、虚煩でありながらも場合によっては宿食・食積があり、かなり内熱傾向であったことが見えて来ませんでしょうか。

 しかも香豉が、肉類の中毒に効果があるとのことから、肉食に偏っていたのかもしれませんね。

 梔子豉湯を服用して緩解する場合、下記【二二八条】をみると、すでに頭汗しているのですから、胸中の熱は呼気か上焦部位の肌表から排泄されると考えても差し支えないと思います。

 【二二八条】

 陽明病、之を下し、其の外に熱有り、手足温にして、結胸せず、心中懊憹し、飢えて食すること能わず、但だ頭汗出ずる者は、梔子豉湯之を主る。

 では、②の熱源はどこなのかという疑問だけが残ります。

 腹証奇覧と腹証奇覧翼を見てみましょう。

      

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 腹証奇覧には「図の如く心下空、之を按ずれば軟。心中窒結痛、時々煩熱し、手足温。若しくは甚だしきものは心中懊憹、その余は伝あって存ず」とあります。

 やはり、一旦吐き下しをしているので、心下はくつろいでいることが分かります。

 次に腹証奇覧翼の図です。

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 やはりこの図でも、心下空と記載されています。

 そして「虚煩を以てするものは、凡そ、病邪裏に入り、心煩するものは、之を心下に候うに、必ず痞す。或いは、之を按じて濡(やわらか)なりといえども、腹底に至って必ず凝(むすぼ)るもの、あるべし」と記載されています。

 この腹証奇覧翼に記載されている腹底の邪実は、熱の結びかもしれませんね。

 またP117【二二一条】に、

「若し之を下せば、則ち胃中空虛し、客氣膈を動じ、心中懊憹す。舌上胎ある者は、梔子豉湯之を主る」とあります。

 さらにP155【三七五条】に

「下利したる後更に煩し、之を按じて心下濡(なん)の者は、虛煩(きょはん)と為すなり、梔子豉湯に宜し」と、実邪が無く心下が柔らかいとありますので、凡そ下法を用いた後の邪熱が、胸に結集しているだけかもしれません。

 ただ、221条にある舌上胎ある者」によって、ある程度湿熱が存在している可能性は残ります。

 ですが総じて、梔子豉湯は吐を目的とした方剤ではなく、胸に結集した鬱熱を解いて上焦に導く清熱の方剤という理解で良いだろうと思います。

 もしそうでしたら、鍼を用いるとなると胸中から心下の鬱熱を清すればいいのですから、ダイレクトに身柱穴~神道穴・至陽穴や内関穴などの内の、一穴で済むかもしれませんね。

 下記の梔子甘草湯、梔子生姜湯も、梔子豉湯の配穴で良いと思います。

 

 梔子甘草湯は、少気とありますから呼吸が浅く弱く、息切れしているので急迫を治す甘草を加えているのでしょう。

 梔子生姜豉湯は、吐き下しをした後であるにもかかわらず、まだ水が残っていて余熱と一緒に上焦に昇ってくるので吐き気がすると考えられます。

 ですから水を動かす生姜を加えたのですね。

 

〔梔子湯方〕

梔子(十四箇擘) 香(四合綿裹)

右二味、以水四升、先煮梔子、得二升半、内、煮取一升半、去滓、分為二服、温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 香豉(こうし)(四合、綿もて裹(つつ)む)

右二味、水四升を以って、先ず梔子を煮て二升半を得、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて二服と為(な)し、一服を温進(おんしん)す、吐を得る者は、後服(こうふく)を止(とど)む。

〔梔子甘草湯方〕

梔子(十四箇擘) 甘草(二兩炙) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、甘草、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 甘草(二兩炙る) 香豉(こうし)(四合綿を裹(つつ)む)

右三味、水四升を以て、先ず梔子、甘草を煮て、二升半を取る、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。

〔梔子生薑湯方〕

梔子(十四箇擘) 生薑(五兩) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、生薑、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇擘) 生薑(五兩) 香豉(四合綿裹)

右三味、水四升を以て、先ず梔子(しし)と生薑を煮て、二升半を取り、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去る、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。