ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

75.太陽病(中)103条 大柴胡湯 大黄の去加

【一〇三条】

太陽病、過經十餘日、反二三下之。後四五日、柴胡證仍在者、先與小柴胡。嘔不止、心下急(一云嘔止小安)、鬱鬱微煩者、為未解也、與大柴胡湯、下之則愈。方五十三。

太陽病、過經(かけい)十餘日、反って二、三之を下す。後四、五日、柴胡の證仍(な)お在る者は、先ず小柴胡を與う。嘔(おう)止まず、心下急し(一云嘔止小安)、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)する者は、未だ解せずと為すなり、大柴胡湯を與えて、之を下せば則ち愈ゆ。方五十三。

  少し意訳します。

 太陽病に罹り、10日余日が経過した頃、腑実証と誤診して2~3回下法を用いた。

 その後4~5日が経過して、まだ柴胡の証がある場合は、まず小柴胡湯を与えなさい。

 その後、吐き気が治まらず、心下が急し、鬱々として胸のあたりに微煩があるものには、大柴胡湯で下しをかけると癒えるのである。

 

 太陽病に罹って10日以上経っているのですから、他経に伝変している頃ですし、元々吐き気もしていたようです。

 口渇や便秘なども現れていたのかもしれませんし、三陽の合病・併病だったのかもしれません。

 もしそうでしたら、少陽枢機を動かす小柴胡湯を用いるべきところを承気湯類で2~3回下しをかけたのですね。

 それでも吐き気が治まらず、柴胡の証があるものは、安全のために先ずは小柴胡湯を与えて様子を見なさいということですね。

 それでもなお吐き気が治まらず、心下が堅く塞がって鬱々と微煩する場合は、大柴胡湯で下しをかけなさいということです。

 「鬱々と微煩」とありますが、小柴胡湯との関係でみるなら、96条の「嘿嘿不欲飲食、心煩喜嘔、或胸中煩」のさらに激しい状態だろうと思われます。

 腹証奇覧翼の図です。

 心下痞鞕して拘攣とあります。

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 そして小柴胡湯証より、さらに陽明に近い少陽病ですね。

 ところが下しなさいとあるにもかかわらず、配剤の中に大黄が入っていません。

 その後に続く王叔和の注記に「大黄2両を加えないと大柴胡湯にはならない」と記されています。

 これ、どうなのでしょうね。

 大柴胡去大黄として、エキス剤も出ています。

 小柴胡湯と大柴胡湯の配剤を比べてみましょう。

 小柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、炙甘草

 大柴胡湯:柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、芍薬、枳実

 単純に、小柴胡湯から人参、炙甘草を除いて、芍薬、枳実を加えたものが、大柴胡湯ということになります。

 薬徴に倣って解説すると、芍薬は結実して拘攣を治し、枳実は結実の毒を治すでした。

 ざっくりみれば、大柴胡湯は小柴胡湯より緊張度の高い腹症ということになります。

 そして大黄は気味苦寒、結毒を通利するです。

 大黄の有無は、腑実の程度によるのでしょうか。

 <金匱要略・腹滿寒疝宿食病>12条をみますと、

 「按之心下滿痛者,此為實也,當下之,宜大柴胡湯主之」

 これを按じてみて、心下が満痛する者は実であるから、はっきりと下す方剤として大柴胡湯これを主ると記されています。

 吉益東洞は、「小柴胡湯証にして、胸腹拘攣し、下すべき者、これを主る」としています。

 どうやら、大柴胡湯は、大黄2両を加えた和解少陽と瀉下を組み合わせた方剤と理解するのが理にかなっているようです。

 ちなみに、中医薬学では、和解少陽・泄下熱結の効能として評価しています。

 臨床的には、大柴胡湯が陽明よりの少陽枢機を解く目的と理解するならば、この大黄の去加はそれこそ医師のさじ加減と言ったところでしょうか。

 

 102条は、後人の覚書だと思われますので、原文と読み下し文のみを最後に記載しています。

〔大柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗) 生薑(五兩切) 枳實(四枚炙) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓再煎、温服一升、日三服。一方、加大黄二兩。若不加、恐不為大柴胡湯。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗う) 生薑(五兩切る) 枳實(きじつ)(四枚炙る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取る、滓を去り再煎し、一升を温服し、日に三服す。一方に、大黄二兩を加う。若し加わざれば、恐らくは大柴胡湯と為さず。

【一〇二条】

傷寒二三日、心中悸して而煩者、小建中湯主之。五十二(用前第五十一方)。

傷寒二、三日、心中悸して煩する者は、小建中湯之を主る。五十二(前の第五十一方を用う)。