ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

92.太陽病(下)135~137条 大陥胸湯のバリエーション

一三五条

傷寒六七日、結胸熱實、脉沈而緊、心下痛、按之石者、大陷胸湯主之。三(用前第二方)

傷寒六、七日、結胸(けっきょう)熱實(ねつじつ)、脉沈にして緊、心下痛み、之を按じて石鞕(せっこう)の者は、大陷胸湯之を主る。三(用前第二方)

 少し意訳します。

 傷寒に罹って6・7日が経過しました。熱実の結胸となり、脈は沈緊である。

 心下が痛んで、これを按じると石鞕しているのは、大陥胸湯証である。

 ここでは熱実結胸といっていますので、水熱が互結するにも、バリエーションがあることが分かります。

 熱>水の互結です。

 すると心下も痞鞕から石鞕へと緊張度が高まることも分かります。

 この場合、脉沈緊とありますから、134条の脉遅も、沈遅だったことが分かります。

一三六条

傷寒十餘日、熱結在裏、復往来寒熱者、與大柴胡湯。

但結胸、無大熱者、此為水結在胸脇也。但頭微汗出者、大陷胸湯主之。四(用前第二方)。

傷寒十餘日、熱結んで裏に在(あ)り、復(ま)た往来寒熱する者は、大柴胡湯を與(あた)う。

但(た)だ結胸して、大熱無き者は、此れ水を結んで胸脇に在りと為すなり。但だ頭微(かす)かに汗出づる者は、大陷胸湯之を主る。四(用前第二方)。

 傷寒に罹って10余日経過して、熱が裏に結んでいても、往来寒熱がある場合は、少陽枢機の大柴胡湯証だと言ってます。

 この場合の大柴胡湯は、熱結で腑実があるのでしたら、加大黄となります。

 しかし往来寒熱が無く、ただ結胸証が備わって表熱が無いようであれば、胸脇に水が結んでいる状態であると言ってます。

 そして水>熱の結胸だからでしょう、頭に少し発汗がみられるのですね。

 ここでわざわざ大柴胡湯を出しているのは、心下にのみ痞鞕が現れるのではなく、季肋部から脇にかけての広い範囲にわたって強い緊張が現れる場合があることを示しているのだと思います。

 ここで大柴胡湯証と大陥胸湯証の腹証を、腹証奇覧翼から引用して並べてみますので、見比べてください。

 実際の臨床では、邪の現れ方は多くのバリエーションがあるのだと思います。

 これを腹証だけで判断するのは、難しそうですね。

 やはり、問診などを駆使して、外証をしっかりとらえるべきですね。

 

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一三七条

太陽病、重發汗而復下之、不大便五六日、舌上燥而、日所小有潮熱(一云日所發心胸大煩)、從心下至少腹滿而痛不可近者、大陷胸湯主之。五(用前第二方)。

太陽病、重ねて汗を發して復た之を下し、大便せざるること五、六日、舌上燥きて渴し、日晡所(にっぽしょ)小(すこ)しく潮熱有り(一云日晡所發心胸大煩)、心下從り少腹に至り鞕滿(こうまん)して痛み近づくべからざる者は、大陷胸湯之を主る。五(用前第二方)。

 この条文は水熱互結が陽明病位にまで及んだ状態であることが分かります。

 太陽病で一度ならずも二度も発汗させ、さらに下すべき証があったので下法を用いたところ、5・6日も便秘して、舌上が乾燥して口渇が現れ、少しだが日晡所潮熱も現れたとあるのですから、既に陽明病位に影響が及んでいる状態です。

 この病人、これまで度々発汗法と下法を用いたのに、さらにこれから大陥胸湯で下法適応者なのですから、相当体力のある人ですね。

 そして腹証は、心下痞鞕もあるのでしょうが、心下から少腹までの広い範囲で堅く緊張して満となっているのですね。

 しかも、衣服が触れても痛いと言ってるのですから、大実証です。

 ブログタイトル90.太陽病(下)134条 大陥胸湯(1)のところで、「結胸証と判断すべき主証は一体何なのでしょうか」と疑問点を提示していました。

 結胸証と判断する症候をまとめてみます。

 膈内拒痛、短気、煩躁、心中懊憹、心下痞鞕・石鞕、心下痛、脉沈遅で緊有力。

 このような症候がすべて備わり、大柴胡湯証と鑑別できれば結胸と判断するしかないということでしょうか。

 ただ、陽明病承気湯証と結胸証が重なっていても、大陥胸湯を用いて下法を行うべきなのですね。

 なかなかこのような劇症に遭遇することは、まれであると思いますが、この水熱互結の病理とその症候を繋いで理解していると、雑病にも十分応用できると思います。