ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

130.陽明病 179∼206条 陽明病の綱領

 陽明病篇に入って、いきなりですが後人の覚書などの攙入が多いと思われますので、陽明病の綱領となる180条のみの解説に致します。

【一八〇条】

陽明之為病、胃家實(一作寒)是也。

陽明の病為(た)るや、胃家實(一作寒)是れなり。

 これが陽明病の綱領なのですが、太陽病に比べて、実に簡素に記されています。

 このことの意味は、陽明病位の脉証なり症候が複雑多岐にわたるので、最大公約数的にしか表現できないためだろうと考えられます。

 さて、この「胃家実」とは、何を表現しているのでしょうか。

 <中国漢方医語辞典>によりますと、

 「胃家とは、大腸・小腸の略称である。胃家実とは、邪熱が陽明に結ばれ、津液が傷つけられて現れる症候である。

 主要な症状は壮熱、煩渇、ひどく汗が出る、脈象は洪大などである。

 邪熱と腸の中の糞便が結ばれることによって潮熱が出、便秘する、腹が痛み手で押さえるのを拒むなどの症状を呈する」とあります。

 太陽病位から病が伝変して陽明病位に達すると、悪寒は無くなり悪熱するようになり、口渇や腑実証が現れるので、腹症もまた実満を呈するようになります。

 その他の症候に関しては、これから条文を追って一緒に見ていきたいと思います。

 179条から206条までは、原文と読み下し文のみの掲載です。

【一七九条】

問曰、病有太陽陽明、有正陽陽明、有少陽陽明、何謂也。答曰、太陽陽明者、脾約(【一云絡)是也。正陽陽明者、胃家實是也。少陽陽明者、發汗、利小便已、胃中燥、煩、實、大便難是也。

 

問いて曰く、病に太陽陽明有り、正陽陽明有り、少陽陽明有りとは、何の謂(い)いぞや。

答えて曰く、太陽陽明なる者は、脾約(ひやく)(一云絡)是れなり。

正陽の陽明なる者は、胃家實是れなり。少陽陽明なる者は、汗を發し、小便利し已(おわ)り、胃中燥き、煩し、實し、大便難是れなり。

 

【一八〇条】

陽明之為病、胃家實(一作寒)是也。

陽明の病為(た)るや、胃家實(一作寒)是れなり。

 

【一八一条】

問曰、何緣得陽明病。答曰、太陽病、若發汗、若下、若利小便、此亡津液、胃中乾燥、因轉屬陽明。不更衣、内實大便難者、此名陽明也。

問いて曰く、何に緣(よ)りて陽明病を得るや。。答えて曰く、太陽病、若しくは汗を發し、若しくは下し、若しくは小便利す。此れ津液を亡(なく)し、胃中乾燥し、因(よ)りて陽明に轉屬す。更衣せず、内實し大便難の者は、此れを陽明と名づく。

 

【一八二条】

問曰、陽明病外證云何。答曰、身熱、汗自出、不惡寒反惡熱也。

問いて曰く、陽明病の外證とは何を云うや。答えて曰く、身熱し、自ずと汗出で、惡寒せず、反って惡熱するなり。

 

【一八三条】

問曰、病有得之一日、不發熱而惡寒者、何也。答曰、雖得之一日、惡寒將自罷、即自汗出而惡熱也。

問いて曰く、病之を得ること一日、發熱せずして惡寒する者有りとは、何ぞや。答えて曰く、之を得ること一日と雖も、惡寒し將(まさ)に自ら罷(や)まんとするは、即ち自ずと汗出でて惡熱するなりと。

 

【一八四条】

問曰、惡寒何故自罷。答曰、陽明居中、主土也。萬物所歸、無所復傳。始雖惡寒、二日自止、此為陽明病也。

問いて曰く、惡寒何が故(ゆえ)に自ら罷(や)むと。答えて曰く、陽明は中に居きて、土を主るなり。萬物の歸(き)する所にして、復た傳わる所無しと。始め惡寒すると雖も、二日に自ずと止む。此れ陽明病と為すなり。

 

【一八五条】

本太陽、初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明也。傷寒發熱、無汗、嘔不能食、而反汗出濈濈然者、是轉屬陽明也。

本(もと)太陽、初め病を得る時、其の汗を發し、汗先ず出づるも徹せず、因りて陽明に轉屬するなり。傷寒、發熱、汗無く、嘔して食すること能わず。而るに反って汗出ずること濈濈(しゅうしゅう)然たる者は、是れ陽明に轉屬するなり。

 

【一八六条】

傷寒三日、陽明脉大。

傷寒三日、陽明の脉大。

 

【一八七条】

傷寒脉浮而緩、手足自温者、是為繫在太陰。太陰者、身當發黄。若小便自利者、不能發黄。至七八日、大便鞕者、為陽明病也。

傷寒、脉浮にして緩、手足自ら温なる者は、是れ太陰に在りて繫(かか)ると為す。太陰の者、身當(まさ)に黄を發すべし。若し小便自利する者は、黄を發すること能わず。七、八日に至り、大便鞕(かた)き者は、陽明病と為すなり。

 

【一八八条】

傷寒轉繫陽明者、其人濈然微汗出也。

傷寒、轉じて陽明に繫(かか)る者は、其の人濈然(しゅうぜん)として微(すこ)しく汗出ずるなり。

 

【一八九条】

陽明中風、口苦、咽乾、腹滿、微喘、發熱、惡寒、脉浮而緊。若下之、則腹滿小便難也。

陽明の中風、口苦く、咽乾き、腹滿し、微(かす)かに喘(ぜん)し、發熱し、惡寒し、脉浮にして緊。若し之を下せば、則ち腹滿し、小便難なり。

 

【一九〇条】

陽明病、若能食、名中風。不能食、名中寒。

陽明病、若し能(よ)く食するは、中風と名づく。食すること能わざるは、中寒と名づく。

 

【一九一条】

陽明病、若中寒者、不能食、小便不利、手足濈然汗出、此欲作固瘕、必大便初鞕後溏。所以然者、以胃中冷、水穀不別故也。

陽明病、若し中寒する者は、食すること能わず、小便不利し、手足濈然(しゅくぜん)汗出ず。此れ固瘕(こか)を作(な)さんと欲す。必ず大便初め鞕く、後溏(とう)す。然る所以の者は、胃中冷え、水穀別たざるを以ての故なり。

 

【一九二条】

陽明病、初欲食、小便反不利、大便自調、其人骨節疼、翕翕如有熱狀、奄然發狂、濈然汗出而解者、此水不勝穀氣、與汗共并、脉緊則兪。

陽明病、初め食を欲し、小便反って利せず、大便自ら調う、其の人骨節疼(うず)き、翕翕(きゅうきゅう)として熱狀有るが如く、奄然(えんぜん)として狂を發し、濈然(しゅうぜん)として汗出でて解する者は、此れ水穀氣に勝たず、汗と共に并(あわ)さり、脉緊なれば則ち兪ゆ。

 

【一九三条】

陽明病、欲解時、從申至戌上。

陽明病、解せんと欲する時は、申(さる)從(よ)り戌(いぬ)の上に至る。

 

【一九四条】

陽明病、不能食、攻其熱必噦。所以然者、胃中虛冷故也。以其人本虛、攻其熱必噦。

陽明病、食すること能わざるに、其の熱を攻むれば必ず噦(えっ)す。然る所以(ゆえん)の者は、胃中虛冷するが故なり。其の人本(もと)虛するを以て、其の熱を攻むれば必ず噦す。

 

【一九五条】

陽明病、脉遲、食難用飽。飽則微煩頭眩、必小便難、此欲作穀癉、雖下之、腹滿如故。所以然者、脉遲故也。

陽明病、脉遲、食を用いて飽き難し。飽けば則ち微煩(びはん)、頭眩(ずげん)し、必ず小便難。此れ穀癉(こくたん)を作(な)さんと欲す。之を下すと雖も、腹滿故(もと)の如し。然る所以の者は、脉遲なるが故なり。

 

【一九六条】

陽明病、法多汗、反無汗、其身如蟲行皮中狀者、此以久虛故也。

陽明病、法は汗多きに、反って汗無く、其の身蟲(むし)の皮中を行く狀の如き者は、此れ久しく虛するを以ての故なり。

 

【一九七条】

陽明病、反無汗而小便利、二三日嘔而欬、手足厥者、必苦頭痛。若不欬、不嘔、手足不厥者、頭不痛。(一云冬陽明)

陽明病、反って汗無くして小便利し、二、三日嘔して欬(がい)し、手足厥する者は、必ず頭痛を苦しむ。若し欬せず、嘔せず、手足厥せざる者は、頭痛まず。(一云冬陽明)

 

【一九八条】

陽明病、但頭眩、不惡寒。故能食而欬、其人咽必痛。若不欬者、咽不痛。(一云冬陽明)

陽明病、但だ頭眩(ずげん)して、惡寒せず。故に能(よ)く食して欬し、其の人咽(のど)必ず痛む。若し欬せざる者は、咽痛まず。(一云冬陽明)

 

【一九九条】

陽明病、無汗、小便不利、心中懊憹者、身必發黄。

陽明病、汗無く、小便不利し、心中懊憹(おうのう)する者は、身必ず黄を發す。

 

【二〇〇条】

陽明病、被火、額上微汗出、而小便不利者、必發黄。

陽明病、火を被(こおむ)り、額上(がくじょう)微(すこ)しく汗出でて、小便不利する者は、必ず黄を發す。

 

【二〇一条】

陽明病、脉浮而緊者、必潮熱發作有時。但浮者、必盗汗出。

陽明病、脉浮にして緊の者は、必ず潮熱し、發作に時(とき)有り。但だ浮の者は、必ず盗汗(とうかん)出ず。

 

【二〇二条】

陽明病、口燥但欲漱水、不欲嚥者、此必衄。

陽明病、口燥(かわ)き、但だ水を漱(すす)がんと欲し、嚥(の)むことを欲せざる者は、此れ必ず衄(じく)す。

 

【二〇三条】

陽明病、本自汗出。醫更重發汗、病已差、尚微煩不了了者、此必大便鞕故也。以亡津液、胃中乾燥、故令大便鞕。當問其小便日幾行、若本小便日三四行、今日再行、故知大便不久出。今為小便數少、以津液當還入胃中、故知不久必大便也。

陽明病、本(もと)自ずと汗出ず。醫更に重ねて汗を發し、病已(すで)に差(い)ゆるも、尚(な)お微煩して了了とせざる者は、此れ必ず大便鞕(かた)きが故なり。津液を亡(なく)し、胃中乾燥するを以ての故に、大便をして鞕からしむ。當に其の小便日に幾行(いくこう)なるかを問うべし。若し本(もと)小便日に三、四行なるに、今日に再行す。故に大便久しからずして出づるを知る。今、小便の數(かず)少なきが為に、津液當に還(めぐ)りて胃中に入るべきを以ての故に、久しからずして必ず大便するを知るなり。

 

【二〇四条】

傷寒嘔多、雖有陽明證、不可攻之。

傷寒、嘔多きは、陽明の證有りと雖も、之を攻む可からず。

 

【二〇五条】

陽明病、心下鞕滿者、不可攻之。攻之、利遂不止者死。利止者愈。

陽明病、心下鞕滿(こうまん)する者は、之を攻むべからず。之を攻め、利遂(つい)に止まざる者は死す。利止む者は愈ゆ。

 

【二〇六条】

陽明病、面合色赤、不可攻之。必發熱、色黄者、小便不利也。

陽明病、面色赤きを合するは、之を攻むべからず。必ず發熱す。色黄の者は、小便利せざるなり。