ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

153.陽明病 243条 呉茱萸湯

【二四三条】

食穀欲嘔、屬陽明也、呉茱萸湯主之。得湯反劇者、屬上焦也。呉茱萸湯。方二十九。

穀を食して嘔せんと欲するは、陽明に屬するなり、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)之を主る。湯を得て反って劇しき者は、上焦に屬するなり。呉茱萸湯。方二十九。

 条文が簡潔に過ぎて、病態が見えにくいところです。

 穀を食して嘔するのですから、胃気不和降です。

 これは陽明に属するとなっていますが、「胃家実」の陽明病でないことは呉茱萸湯の配剤をみると明らかです。

 例によって薬能から病態を推理します。

呉茱萸 気味 苦辛 熱 小毒
中薬学:暖肝・散寒止痛 下気止嘔
薬徴:嘔して胸満するを主冶するなり。
新古方薬嚢:味辛温胃中を温め其の働きを鼓舞す。故に停水を去り吐き気を治し下利を止め手足を温めまた頭痛を治す。

 方剤名となっている呉茱萸は、「嘔を治す」生姜と同じく、非常に辛い生薬で温薬です。

 人参は、「心下痞堅 痞寇 支結を主治す。兼ねて心胸停飲、嘔吐、不食、唾沫、心痛、腹痛、煩悸を治す。」でしたから、心下に水を集めてくる薬能があります。

「 攣引拘急を主冶する」大棗と人参で、緊張を緩めて呉茱萸・生姜で水を散らす構図が見えてきます。

 新古方薬嚢にあるように、寒の痰飲を治す方剤です。

 ところが呉茱萸湯を服用して、反って症状が悪化するのは、上焦に属すると言っています。   

 嘔を目標に呉茱萸湯を与えているのですから、「陽明に属する」とは「中焦に属する」と置き換えることが出来ると思います。

 そして「上焦に属する」とは、柴胡剤の胸脇部の邪によって嘔が起きていることが分かります。

 腹証奇覧の腹診図をみてみます。

      f:id:ichinokai-kanazawa:20180327144709j:plain

 何となく小柴胡湯証に似ていますね。

 実際、腹証奇覧に、胸脇苦満して嘔があり、柴胡剤で治らないものとあります。

 もう少し、呉茱萸湯の病態をつかむには、以下の条文に目を通して頂けたらと思います。

【三〇九条】

少陰病、吐利、手足逆冷、煩躁欲死者、呉茱萸湯主之。方八。

少陰病、吐利(とり)し、手足逆冷(ぎゃくれい)し、煩躁して死せんと欲する者は、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)之を主る。

【三七八条】

乾嘔吐涎沫、頭痛者、呉茱萸湯主之。方十八。

乾嘔(かんおう)し、涎沫(えんまつ)を吐し、頭痛する者は、呉茱萸湯之を主る。

 309条では、吐き下しをして唾を吐いて、手足が冷え上がって煩躁して苦しむ様子が見て取れます。四逆湯証に似ていますね。

 378条も、恐らくかなり厳しい頭痛だろうと推測できますね。

 これら、胃寒と痰飲によって生じていることが分かると思います。

 腹証奇覧翼には、さらに詳しく腹証について触れていますので、図と一緒に記述します。

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 上図みると、なんか迫力ある腹診図と感じます。

 「腹状に於いては、胸満、心下痞鞕、脇下攣急(両の章門の行、上下に攣急す)。

 右の小腹結聚し、按じて痛むなどの証を得べし」とあります。 

 また雨天の前に腹満して頭項強痛するなど、表証とよく似た症状が現れるので、誤って葛根湯を投じる医師の多いことも記載されています。

 

 ところで、改めて呉茱萸をみてみます。

 中薬学的には、肝胃不和、暖肝とか疏肝下気、脾腎の陽を扶けるなど、今ひとつ的を得た感覚がありません。

 辛温の剤といえば、桂枝・麻黄(肌表・上焦)、乾姜・生姜(肌肉・中焦)、附子(筋骨・下焦)と言ったイメージを持っています。

 いずれも、痰飲をさばく薬剤です。

 この呉茱萸も辛温の厳しいものですから、やはり痰飲をさばく方剤として捉えるのがすっきりとすると思います。

 寒滞肝脈で肝陽が昇発出来ないのは、やはり中焦(上下の枢)が痰飲によって阻まれているからだと考えられます。

 肝陽が冷えている(肝虚)のではなく、痰飲が陽気を阻んでいるために寒滞肝脈になっているに過ぎないということです。

 まったけき肝陽虚であるならば、下焦・腎陽を建てるべきでしょう。

 呉茱萸をこのように捉えて、後々の厥陰病を読み進めたいと思います。

 244条から247条は、原文と読み下し文のみの掲載です。

 

〔呉茱萸湯方〕

呉茱萸(一升洗) 人參(三兩) 生薑(六兩切) 大棗(十二枚擘)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合。日三服。 

呉茱萸(ごしゅゆ)(一升、洗う) 人參(三兩) 生薑(六兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。

【二四四条】

太陽病、寸緩、關浮、尺弱、其人發熱汗出、復惡寒、不嘔、但心下痞者、此以醫下之也。如其不下者、病人不惡寒而渴者、此轉屬陽明也。小便數者、大便必鞕、不更衣十日、無所苦也。渴欲飲水、少少與之、但以法救之。渴者、宜五苓散。方三十。

太陽病、寸緩、關浮、尺弱、其の人發熱して汗出で、復た惡寒し、嘔せず、但だ心下痞(ひ)する者は、此れ醫之を下すを以てなり。如(も)し其の下らざる者、病人惡寒せずして渴する者は、此れ陽明に轉屬(てんぞく)するなり。小便數の者は、大便必ず鞕く、更衣せざること十日なれども、苦しむ所無きなり。渴して飲水せんと欲するは、少少之を與う。但だ法を以て之を救う。渴する者は、五苓散に宜し。方三十。

【二四五条】

脉陽微而汗出少者、為自和(一作如)也。汗出多者、為太過。陽脉實、因發其汗出多者、亦為太過。太過者、為陽絶於裏、亡津液、大便因鞕也。

脉陽微(ようび)にして汗出ずること少なき者は、自ら和すと為すなり。汗出ずること多き者は、太過と為す。陽脉實し、因りて其の汗を發するに、出ずること多き者は、亦(ま)た太過と為す。太過の者は、陽裏に絶すと為し、津液を亡(なく)し、大便因りて鞕きなり。

【二四六条】

脉浮而芤、浮為陽、芤為陰。浮芤相搏、胃氣生熱、其陽則絶。

脉浮にして芤(こう)、浮は陽と為し、芤は陰と為す。浮芤相い搏(う)ち、胃氣熱を生じ、其の陽則ち絶す。 

【二四七条】

趺陽脉浮而濇、浮則胃氣強、濇則小便數。浮濇相搏、大便則鞕、其脾為約、麻子仁丸主之。方三十一。

趺陽(ふよう)の脉浮にして濇(しょく)、浮は則ち胃氣強く、濇は則ち小便數(さく)。浮濇(ふしょく)相い搏ち、大便則ち鞕し。其れ脾約と為す。麻子仁丸(ましにんがん)之を主る。方三十一。

〔麻子仁丸方〕

麻子仁(二升) 芍藥(半斤) 枳實(半斤炙) 大黄(一斤去皮) 厚朴(一尺炙去皮) 杏仁(一升去皮尖熬別作脂)

右六味、蜜和丸如梧桐子大。飲服十丸、日三服、漸加、以知為度。

麻子仁(ましにん)(二升) 芍藥(半斤) 枳實(半斤、炙る) 大黄(一斤、皮を去る) 厚朴(一尺、炙り、皮を去る) 杏仁(一升皮尖を去り、熬(い)り、別に脂と作(な)す)

右六味、蜜もて和して丸とし、梧桐子(ごどうし)大の如くす。十丸を飲服し、日に三服す。漸(ようや)く加えて、知るを以て度と為す。