ブログ『鍼道 一の会』

『鍼道 一の会』は、「福祉への貢献」を目的に、「伝統医学」を規範に、「鍼灸」を手段に、「大阪市」を本拠地に据え、活動を続けている団体です。

188.厥陰病 338条 鳥梅丸

【三三八条】

傷寒脉微而厥、至七八日膚冷、其人躁、無暫安時者、此為藏厥、非蚘厥也。

蚘厥者、其人當吐蚘、令病者靜、而復時煩者、此為藏寒。蚘上入其膈、故煩、須臾復止。

得食而嘔、又煩者、蚘聞食臭出、其人常自吐蚘、蚘厥者、烏梅丸主之。又主久利。方一。

傷寒脉微にして厥し、七、八日に至りて膚(はだ)冷え、其の人躁(そう)にして、暫くも安き時無き者は、此れを藏厥(ぞうけつ)と為す。蚘厥(かいけつ)に非ざるなり。

蚘厥なる者は、其の人當(まさ)に蚘(かい)を吐すべし。病者をして靜かにして復た時に煩せしむる者は、此れを藏寒(ぞうかん)と為(な)す。蚘上りて其の膈に入るが故に煩し、須臾(しゅゆ)にして復た止(や)む。

食を得てして嘔し、又煩する者は、蚘食臭(しょくしゅう)を聞きて出ず。其の人常に自ら蚘を吐す。蚘厥なる者は、烏梅丸(うばいがん)之を主る。又、久利(きゅうり)を主る。方一。

  条文は、臓厥と蚘厥の二証について述べられています。

 まず、傷寒に罹って脈が微となり、手足が厥冷して7・8日経過すると体幹部の皮膚まで冷えが現れ、手足を動かして苦しむ躁も現れて少しの間も安らかにしておれない程である。

 これは臓厥であって蚘厥ではないと記されています。

 四肢厥冷で煩躁状態であれば、四逆湯類で対処できると思いますが、体幹部にまで冷えが及ぶとなると、かなり危急で難治の証だと思います。

 

 次に蚘厥というのは、蚘を吐くものである。

 病人を静かにさせ、時に再び煩が現れるのは、臓が冷えたために蚘が上って膈に入るためで、しばらくすると再び止んで静かになるものである。

 食事をして吐き気がしたり煩が現れるのは、蚘が食臭を聞きつけたからである。

 蚘厥の者は、常に自ずから蚘を吐くものである。このような蚘厥の場合、鳥梅丸がこれを主治するのであると記されています。

 

 臓厥の場合は「躁」が現れ、蚘厥の場合は「煩」が現れるという違いははっきりとしています。

 一般的には、蚘厥の場合は、蚘が陽気を阻むために煩が現れ、臓厥の場合は、陽気が尽きようとしているので躁が現れるとされています。

 躁は他覚的に確認できますが、煩は自覚的に本人にしか分からない感覚です。

 さて、鳥梅丸の中身を検討してみます。

 今回新たに登場した方剤は、烏梅と蜀椒、当帰です。

烏梅 気味 酸渋平
中薬学:渋腸止瀉、和胃安蛔、固崩止血、生津止渇
新古方薬嚢:味酸平、停滞を収め内外を通ず、故に膚の冷え手足の寒を治す。

蜀椒 気味 辛熱 小毒
中薬学:散寒止痛・燥湿、解毒駆虫、
新古方薬嚢:味辛温、腹中を温め腹痛を治す。又腹中の虫を殺す力ありと言ふ。

当帰 気味 甘辛苦 温
中薬学:補血調経 活血行気・止痛 潤腸通便 (血中の気薬)
新古方薬嚢:味甘温 中を緩め外の寒を退け気血の行りをよくすることを主る。故に手足を温め、腹痛を治し、内を調え血を和し胎を安んず、之れ当帰の好んで婦人血の道の諸病、諸の冷え込み等に用ひらるる所以なるべし。

 烏梅は、下利を止め、蜀椒は駆虫する薬能があるそうです。

 細辛、乾姜、炮附子は、共に辛温で水を動かす方剤です。

 黄連は心中煩悸を治し、黄蘗は、血熱を清して下痢を止める。

 人参は、心下に水を集めて心下痞鞕を治す。

 当帰は気血を和して、手足を温め、桂枝は上衝を治す。

 

 以上ざっくりと見ますと、腹中で水が陽気を阻んでおり、加えて鬱した気が上衝して心下が痞鞕し、嘔吐や煩が現れている姿が浮かんできませんでしょうか。

 大塚敬節は鳥梅丸を、蛔虫による腹痛、嘔吐、下痢を治すだけでなく、蛔虫と関係のなく久しく下利して止まない者や、妊娠悪阻などに用いています。

 蛔虫による病証、現代ではもう見ることは無いでしょうね。

 339条から349条は、原文と読み下し文のみの記載です。

〔烏梅丸方〕

烏梅(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩炮去皮) 蜀椒(四兩出汗) 桂枝(去皮六兩) 人參(六兩) 黄檗(六兩)

右十味、異擣篩、合治之。以苦酒漬烏梅一宿、去核、蒸之五斗米下、飯熟擣成泥、和藥令相得。内臼中、與蜜杵二千下、丸如梧桐子大。先食飲服十丸、日三服、稍加至二十丸。禁生冷、滑物、臭食等。

 

烏梅(うばい)(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩、炮じて皮を去る) 蜀椒(しょくしょう)(四兩、汗を出す) 桂枝(皮を去る、六兩) 人參(六兩) 

黄檗(おうばく)(六兩)

右十味、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合して之を治む。苦酒(くしゅ)を以て烏梅を漬けること一宿(いっしゅく)、核を去り、之を五斗米の下(もと)に蒸し、飯熟(いじゅく)せば擣きて泥(でい)と成し、

藥に和して相(あ)い得せしむ。臼中(きゅうちゅう)に内(い)れ、蜜とともに杵(つ)くこと二千下(げ)、丸ずること梧桐子大(ごどうしだい)の如くす。食に先だちて十丸を飲服し、日に三服す。

稍(やや)加えて二十丸に至る。生冷(せいれい)、滑物(かつぶつ)、臭食(しゅうしょく)等を禁ず。

 

【三三九条】

傷寒熱少微厥、指(一作稍)頭寒、嘿嘿不欲食、煩躁、數日、小便利、色白者、此熱除也、欲得食、其病為愈。若厥而嘔、胸脇煩滿者、其後必便血。

傷寒熱少なく微厥(びけつ)し、指頭(しとう)寒(ひ)え、嘿嘿(もくもく)として食を欲せず、煩躁す。數日にして小便利し、色白き者は、此れ熱除くなり。食を得んと欲するは、其の病愈ゆること為す。若し厥して嘔し、胸脇煩滿する者は、其の後必ず便血す。

 

【三四〇条】

病者手足厥冷、言我不結胸、小腹滿、按之痛者、此冷結在膀胱關元也。

病者手足厥冷し、我結胸せずと言う。小腹滿し、之を按じて痛む者は、此れ冷(れい)結んで膀胱關元に在(あ)るなり。

 

【三四一条】

傷寒發熱四日、厥反三日、復熱四日。厥少熱多者、其病當愈。四日至七日熱不除者、必便膿血。

傷寒發熱すること四日、厥すること反って三日、復た熱すること四日、厥少なく熱多き者は、其の病當に愈ゆべし。四日より七日に至りて熱除かざる者は、必ず膿血を便す。

 

【三四二条】

傷寒厥四日、熱反三日、復厥五日、其病為進。寒多熱少、陽氣退、故為進也。

傷寒厥すること四日、熱すること反って三日、復た厥すること五日、其の病進むと為(な)す。寒多く熱少なく、陽氣退(しりぞ)くが故に進むと為すなり。

 

【三四三条】

傷寒六七日、脉微、手足厥冷、煩躁、灸厥陰。厥不還者、死。

傷寒六、七日、脉微、手足厥冷し、煩躁するは、厥陰に灸す。厥還(かえ)らざる者は、死す。

 

【三四四条】

傷寒發熱、下利、厥逆、躁不得臥者、死。

傷寒、發熱し、下利し、厥逆し、躁して臥(ふ)すことを得ざる者は死す。

 

【三四五条】

傷寒發熱、下利至甚、厥不止者、死。

傷寒、發熱し、下利甚しきに至り、厥止まざる者は死す。

 

【三四六条】

傷寒六七日不利、便發熱而利、其人汗出不止者、死、有陰無陽故也。

傷寒六、七日利せず、便(すなわ)ち發熱して利し、其の人汗出でて止まざる者は死す。陰有りて陽無きが故なり。

 

【三四七条】

傷寒五六日、不結胸、腹濡、脉虛、復厥者、不可下、此亡血、下之死。

傷寒五六日、結胸せず、腹濡(なん)、脉虛し、復た厥する者は、下すべからず。此れ亡血なり。之を下せば死す。

 

【三四八条】

發熱而厥、七日下利者、為難治。

發熱して厥し、七日にして下利する者は、治し難しと為す。

 

【三四九条】

傷寒脉促(促一作縱)、手足厥逆、可灸之。

傷寒、脉促(そく)、手足厥逆するは、之を灸すべし。